チェコの作家フラバルが書いた『わたしは英国王に給仕した』は、ハチャメチャな小説です。主人公は、ホテルの給仕見習いになった少年。彼に不条理がどんどん降り注ぐんですが、フラバルは、それを見事に笑いに昇華させていく。
仕事をしていると「こうあるべき」と“べき論”で話す人が多いですよね。でも、実際の世の中で人は“こうあるべき”に動いてくれない。私は思うんです、“起きてることは全て正しい”と。実際に起きていることを受け入れて、その状況の中でどう戦うかがビジネスにおいて重要なんです。
この小説の主人公は、狂気の人が彼の前を通り過ぎるのをじっくりと観察し、人生の糧にしていく。舞台となっているチェコは、ナチスに占領され、戦争に巻き込まれて共産化してしまいますが、その時々の状況を受け入れ、人生を楽しむことがいかに大切かということが描かれている。優良のビジネス書といえるかもしれないですね(笑)。
最後は『フォークの歯はなぜ四本になったか』。これはデザインについて論じている本です。私は日々、細かいことが気になる性質なんです。たとえば、シャツの前身ごろが長いのは何故なんだろうと気になって調べると、ローマ時代、シャツは下着でもあったから下半身を包み込む役割もあったのだと。これを知る瞬間が面白い。学生に「企画はどうやったら思いつくか」と聞かれることも多いですが、ネタの一番の宝庫は日常風景なんです。たとえば「おひとり様」という言葉が出来ると、ホテルの宿泊プランなど“おひとり様向けの商品”が誕生します。でも過去にもずっと私たちは、“お一人さま”を目撃していたはずです。日常風景を模様として見過ごすか、情報として読み取るかの違いは大きい。
この本はフォークと言えば四本の歯を思い浮かべるけど、その形に落ち着くまで実は様々な試行錯誤を繰り返してきたこと、そしてこれからも新たな進化を起こす可能性があることを教えてくれるんです。
みなさんも、時間ができたら街の本屋をぜひ訪ねてください。店内を五分めぐれば、自分に興味のない、でもとてつもなく面白い情報が詰まった本に出会えますから。
お勧めの4冊
・『地図と領土』 (ミシェル・ウエルベック 著) ちくま文庫
・『テクニウム テクノロジーはどこへ向かうのか?』 (K・ケリー 著) みすず書房
・『わたしは英国王に給仕した』 (フラバル 著) 河出書房新社
・『フォークの歯はなぜ四本になったか 実用品の進化論』 (H・ペトロスキー 著) 平凡社ライブラリー
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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