書評

脳トレ・ブームに騙されるな!

文: 成毛 眞 (書評サイト「HONZ」代表)

『錯覚の科学』 (クリストファー・チャブリス ダニエル・シモンズ 著/成毛眞 解説/木村博江 訳)

 意思決定に関係する実験も紹介されている。グループ対抗で数学の問題を解く実験では、かならずしも数学に優秀な人がグループのリーダーになったわけではなかった。リーダーになったのはグループ内で一番先に発言した人だったというのだ。そしてグループとしての解答は、その最初の発言に強く影響されたという。

 つまり、多くの人はリーダーの意見に左右されること、そしてリーダーは正しいことをいう人ではなく、最初に発言するようないわゆる声の大きい人だということである。ある種の課題に対する最適解を得るためには話し合いよりも、単純多数決のほうが正しい結論を得ることができる可能性がある。

 ところで、多くの人が錯覚するのは相関関係と因果関係の違いである。アイスクリームの消費量が多い日は、水難事故の発生率が高くなるというのは単なる相関でしかない。両者とも気温と相関しているだけだ。著者たちは単なる相関関係ではなく、因果関係があるかどうかを確かめるためにはただ一つの方法、すなわち「実験」しかないと言い切るのである。つまり、観察するだけでは真実を突き止めることは不可能だというのだ。実験心理学の面目躍如である。

 ほかにもアンケートを取るうえでの心理学的な陥穽や、悪意無き冤罪の作られかたなど豊富な具体例が紹介されていて、読者は飽きることがないであろう。参考文献も豊富であり、たんなる心理学の読み物で終わらせていない。原書のタイトルにもなっている実験ビデオも簡単にネットで見ることができる。本書は一般向けに書かれてはいるが、反証可能な専門書としての役割も果たしており、じつに頼もしい心理学書に仕上がっている。

錯覚の科学
クリストファー・チャブリス ダニエル・シモンズ 著/成毛眞 解説/木村博江 訳

定価:本体820円+税 発売日:2014年08月06日

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