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全悪人怪人大百科 リンカーン・ライム編

全悪人怪人大百科 リンカーン・ライム編

文:杉江 松恋 (書評家)

『バーニング・ワイヤー』 (ジェフリー・ディーヴァー 著/池田真紀子 訳)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『スキン・コレクター』
(二〇一四年/二〇一五年)

――骨がいったいどんな洞察を与えるというのだ? 何も与えない。皮膚とは違う。

『スキン・コレクター』 (ジェフリー・ディーヴァー 著/池田真紀子 訳)

 女性の遺体が地下のトンネル内で発見される。死因は、その肌に彫られたタトゥーだった。傷口から毒物が滲入させられたのだ。のみならずそのタトゥーは、何かのメッセージを示しているように見えた。「the second」という文字とその周囲を取り囲んだスカラップ模様の飾り線。出来栄えはプロのタトゥー・アーティストの仕業に見える。さらにサックスは重要な証拠物件を入手した。本のページの切れ端だ。調査の結果、それは『シリアル・シティーズ』という連続殺人事件を扱ったノンフィクションであることが判明した。しかもそのページは、ライム自身の担当したボーン・コレクター事件について触れられた章のものだったのである。

 事件現場に暗号が残される、過去の有名殺人事件を扱った本が重要な役回りをする、といった数々の要素がボーン・コレクターの再来を思わせる(ニューヨークの地下空間が舞台になるという点も)。犯人こと未詳一一五号が人間の皮膚に異常なまでの執着を見せるというのも、骨を愛した連続犯罪者のネガを見るようである。また未詳一一五号は本から基本的な科学捜査の知識を学び、〈ロカールの交換〉などの、ライムが信奉してやまない原理を嘲弄するような行動をとる。果たして彼はボーン・コレクターの承継者であるのか否か。それがライムたちの捜査方針を左右する重大な要素なのである。

 ナチスが行ったホロコーストの証拠品の中には、人間の皮膚によって作られた実用品がある。未詳一一五号は究極の身体改造として生体解剖と再結合に魅かれることを明かしてもいる。彼の「皮膚の論理」の真の危険性は、第四部になってようやく判明するのだ。

 

 リンカーン・ライム・シリーズの邦訳にはこの他、短篇集『クリスマス・プレゼント』表題作と同『ポーカー・レッスン』所収の「ロカールの原理」がある。前者はクリスマスイヴの日に自宅からいなくなったスーザン・トムソンという女性を巡る物語で、後半の展開にディーヴァーらしいどんでん返しが仕掛けられている(同書のための書き下ろし。二〇〇三年)。後者は実業家が自宅のベッドの上で射殺された事件を扱うもので、短いながらもライム&サックス・チームらしい科学捜査が丹念に描かれており、読みごたえがある(同書が初出。二〇〇六年)。こちらもぜひご一読を。

バーニング・ワイヤー 上
ジェフリー・ディーヴァー・著/池田真紀子・訳

定価:本体750円+税 発売日:2015年11月10日

詳しい内容はこちら

バーニング・ワイヤー 下
ジェフリー・ディーヴァー・著/池田真紀子・訳

定価:本体750円+税 発売日:2015年11月10日

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