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全悪人怪人大百科 リンカーン・ライム編

全悪人怪人大百科 リンカーン・ライム編

文:杉江 松恋 (書評家)

『バーニング・ワイヤー』 (ジェフリー・ディーヴァー 著/池田真紀子 訳)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『ゴースト・スナイパー』
(二〇一三年/二〇一四年)文春-/「このミス」-

――できるかぎり骨に肉を残さずに、完璧に形の整った手本のような肉塊を作っていく。それは一つの芸術だ。スポーツだ。

『ゴースト・スナイパー』 (ジェフリー・ディーヴァー 著/池田真紀子 訳)

 情報産業、エネルギー産業ときて、今度は軍産複合体が題材となる。アメリカ最大の基幹産業と言ってもいいだろう。反アメリカ的な立場をとっていたジャーナリストがバハマで殺害される。それを国家諜報運用局(NIOS)による暗殺として告発するために地方検事補が動き、ライム・チームが協力することになる。ライムは珍しく海外出張までするのである。

 今回の事件の特徴は、実行犯が複数だと序盤から判っていることだ。一人はジャーナリストを殺害した狙撃手である。しかし、犯行現場となったホテルの部屋を狙える位置は、入江を挟んだ対岸の砂嘴(さし)しか考えられない。二〇〇〇メートルもの射程距離から撃ったのだとすれば、まさに神業であった。もう一人は暗殺計画の存在を闇に葬るまで動き回っている殺し屋だ。ジェイコブ・スワンという名でナイフを使うのだが、プロ級の腕前を持つ料理人だというのが変わっている。彼の父親は異常に食にこだわる男で、母親は身を犠牲にして料理を作り続けた。スワンはその手伝いをしながら料理の道に目覚めたのである。父親の愛人を大腸菌で毒殺したいと考えながらも「故意に料理を損なうようなことはどうしてもできな」いため、実行を思いとどまるほどにその道には真剣な念を抱いている。しかし、解体処理の対象としては人間も動物も大した違いはない、と考えるような危険人物でもあるのだ。

 原題のThe Kill Roomには、ジャーナリストが死んだ部屋のことを指すと同時に、もう一つ別の指示対象がある。その意味が判ったとき、小説の見え方はがらりと変化するのである。

【次ページ】『スキン・コレクター』

バーニング・ワイヤー 上
ジェフリー・ディーヴァー・著/池田真紀子・訳

定価:本体750円+税 発売日:2015年11月10日

詳しい内容はこちら

バーニング・ワイヤー 下
ジェフリー・ディーヴァー・著/池田真紀子・訳

定価:本体750円+税 発売日:2015年11月10日

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