- 2015.11.25
- 書評
全悪人怪人大百科 リンカーン・ライム編
文:杉江 松恋 (書評家)
『バーニング・ワイヤー』 (ジェフリー・ディーヴァー 著/池田真紀子 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
『バーニング・ワイヤー』
(二〇一〇年/二〇一二年)文春4/「このミス」8
――電気(ジュース)と死。なんとエレガントな方法なのだろう。五百メートル離れた標的を狙撃銃で撃ち殺すより、はるかに洗練されている。
稀代の天才犯罪者ウォッチメイカーがメキシコシティに現われたという情報が入り、ライムたちはキネシクスの専門家キャサリン・ダンスと連携をとりながら逮捕作戦を練る。しかし、ライムは身近で発生した重大犯罪にも注意を向けなければならなくなった。ニューヨークへの送電網に異常が生じ、そのために死者が出る事件が起きたのだ。西五十七丁目にある変電所に何者かが侵入し、物理的な破壊工作を仕掛けた形跡があった。
過剰な電圧がかかることによって引き起こされるアークフラッシュという現象が本書の犯人が使う武器である。前作でネットワークが犯人によって悪用されたが、今回は電力網が支配される。現代社会では電気は、水のように遍(あまね)く存在し、あって当たり前のものとして認識されている。その当たり前のものを、人を害する凶器に転じさせようというのがこの犯人の狙いだ。本シリーズにおいて大量殺人は珍しい出来事ではないが、今回はそれが電気による死であるだけに、大規模な被害が出る。感電した人々が瞬間的な死を迎える場面は凄惨なものだ。
かなり早い段階で、失踪中の電力会社の社員、レイ・ゴールトという人物に容疑者は絞られる。ゴールトは、送電線の電磁波によって病気になったと考えていたのだ。彼の追跡に多くのページが割かれており、かなり動きの多い小説である。容疑者が多かった前作と対照的で、作者は読み比べたときの違いを意識したのではないかと思われる。他の作品に比べて犯人の存在感は薄いが、油断して読んでいると足元をすくわれるような展開が待ち受けている。
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