- 2015.11.25
- 書評
全悪人怪人大百科 リンカーン・ライム編
文:杉江 松恋 (書評家)
『バーニング・ワイヤー』 (ジェフリー・ディーヴァー 著/池田真紀子 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
『ウォッチメイカー』
(二〇〇六年/二〇〇七年)文春1/「このミス」1
――死ぬのにどのくらいかかったか、か。なかなか興味深い質問だ。
シャーロック・ホームズに対するモリアーティ教授のように、ライムにとっての真の好敵手となったのが本書で登場する犯罪者ウォッチメイカーである。冒頭、立て続けに二つの変死体が発見される。どちらの現場にも文字盤に月の描かれた時計と、ウォッチメイカーの署名が入った紙片が遺されていた。死体の状況から想定される犯行手口は凄惨極まりないものである。第一の事件では犯人は、犠牲者を桟橋につかまらせ、川の上にぶらさがらせて指を切断したものと思われた。もう一件では、死体の喉が錘(おもり)によって押しつぶされていた。おそらく犯人は犠牲者に錘を結んだロープを握らせ、力尽きるまでそれを支えさせ続けたのだ。捜査を進めるうちに、犯人が月の描かれた時計を十個購入していたことが判明する。それは同じような殺人事件があと八回繰り返される可能性を示唆していた。
『ボーン・コレクター』『魔術師』に続く連続殺人犯の登場する物語である。しかし本書の主役であるウォッチメイカーは、前二作の犯人をさらに上回る存在感を示す。彼にとっての善とは心理的刺激であり、悪とは退屈。そして善とは優美な計画とその完璧な実行のことである。おなじみの犯人側の内面描写で複雑機構(時計に備わった時刻を告げる以外の機能)について語る場面があるが、極めて高度に発達した知性が余剰に見えるほどに入り組んだ犯行計画を作り上げ、実行に移す。それを読者が見せつけられる小説なのである。
ウォッチメイカーはシリーズ中唯一の複数話に登場する敵役である。現時点での最新作『スキン・コレクター』は彼が獄中死したとの知らせをライムが受け取る場面から始まっている。
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