- 2015.11.25
- 書評
全悪人怪人大百科 リンカーン・ライム編
文:杉江 松恋 (書評家)
『バーニング・ワイヤー』 (ジェフリー・ディーヴァー 著/池田真紀子 訳)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
『ソウル・コレクター』
(二〇〇八年/二〇〇九年)文春3/「このミス」5
――ノイズの混じったデータ。私が何より嫌いなもの!
ウォッチメイカーという最強の敵が登場してしまい、この先どうなるかと注目していたシリーズは本作で意外な転換点を迎える。今回の敵が武器として用いるのはデータだ。いとこのアーサーが第一級殺人の容疑で逮捕されたことから、ライムは事件に関わることになる。アーサーの容疑を裏づける物的証拠はほぼ完璧で疑問の余地はない。だが、その点に不自然な要素があるのだった。彼に関するデータそのものが改竄(かいざん)されていたのだとしたら? 捜査の結果、ライムたちは世界最大のデータマイニング(データの応用利用)会社である〈SSD〉内に、アーサーに罪を着せた犯人である未詳五二二号が潜んでいる可能性に行き当たる。
未詳五二二号の内的独白は、シリーズに登場する他の犯罪者に比べて被害妄想的であり、それゆえに攻撃的でもある。データマイニングの陰語では特定の対象の個人ファイルをクローゼットと呼ぶが、未詳五二二号は自宅内のクローゼットに置いた蒐集品を眺めることで心の平穏を保っている。展示エリアは十六に分かれているが、シックスティーンとは人間を意味する陰語でもある(人間を管理するIDが十六桁であることからきている)。そのコレクションの中には彼が犠牲者を襲撃した際の戦利品も含まれているのである。データマイニングは個人についての情報を集めることによって力を得るが、未詳五二二号はその滑稽な似姿と言っていい。『ソウル・コレクター』は、力を持つことに取り憑かれた人間の話なのである。
容疑者候補がSSD社内に限定されることから、本書はシリーズ中で最も犯人捜し要素の高い一作となった。実は非常に伝統的な構造を持つ作品でもあるのだ。
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