- 2016.09.02
- 特集
東映の歴史とは、すなわち、成功と蹉跌とが糾う、生き残りの歴史である。――水道橋博士(第2回)
文:水道橋博士 (漫才師)
『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』 (春日太一 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
そして2013年の11月、本書『あかんやつら』は上梓された。
ボクは冒頭に書いた通り、一気読みの興奮冷めやらぬまま、あの日の猪瀬氏の言葉を反芻し、ツイッターに「今度こそ膨大なる埋もれた氷山、その裾野まで描いている!」と綴った。その日、直ぐに春日氏から返信があった。
「処女作の『時代劇は死なず!』が開高健ノンフィクション賞にノミネートされた際に、審査員の崔洋一監督に『東映京都の話はこんなに甘くない!』と酷評された悔しさが、その後の原動力の一つでもあったので、できるだけ『裾野』を描き尽くすことを心がけて執筆しました。それだけに、とても嬉しいお言葉です!」と。
この返信を機に、ボクは尚のこと興味を抱き、春日太一という書き手本人の裾野を巡るべく、まずは未読であった第一作、『時代劇は死なず! 京都太秦の『職人』たち』(集英社新書 2008年。現・河出文庫に完全版を所収)を取り寄せた。
『時代劇は死なず!』は、かつて京都太秦に在った東映、大映、松竹の3つの撮影所が時代劇全盛期を経て、映画からテレビへ主戦場をシフトしていく過程を描き『撮影所版プロジェクトX』というべき、誇り高き映画職人たちの仕事ぶりを描いている。
読書の順番は前後したが、筆者が26歳の大学院生時代に書かれたと云うこの処女作には、春日太一氏の原点、源流、起点があり、その後の著作、研究に一貫する「映像の作り手は温故知新でなければならない」という主題が明記されていた。
京都太秦は、単なる映像スタジオとは割り切れない雅俗混交の結界である。
長き伝統が培った現場に揺蕩う、殺気、技術、プロ意識に、若き春日太一氏は慄きつつも、通い詰め、どっぷりと浸かり、その価値を再認識し、次世代へ継承する記録を残した。
しかし、このデビュー作は、字数制限のタイトな新書の形であり、半分は映画だが、半分はテレビ時代劇の話で、その分、見聞きしたひとつひとつの逸話は断片的になっていた。
第3回に続く
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