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東映の歴史とは、すなわち、成功と蹉跌とが糾う、生き残りの歴史である。――水道橋博士(第2回)

東映の歴史とは、すなわち、成功と蹉跌とが糾う、生き残りの歴史である。――水道橋博士(第2回)

文:水道橋博士 (漫才師)

『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』 (春日太一 著)


ジャンル : #ノンフィクション

 そして2013年の11月、本書『あかんやつら』は上梓された。

 ボクは冒頭に書いた通り、一気読みの興奮冷めやらぬまま、あの日の猪瀬氏の言葉を反芻し、ツイッターに「今度こそ膨大なる埋もれた氷山、その裾野まで描いている!」と綴った。その日、直ぐに春日氏から返信があった。

「処女作の『時代劇は死なず!』が開高健ノンフィクション賞にノミネートされた際に、審査員の崔洋一監督に『東映京都の話はこんなに甘くない!』と酷評された悔しさが、その後の原動力の一つでもあったので、できるだけ『裾野』を描き尽くすことを心がけて執筆しました。それだけに、とても嬉しいお言葉です!」と。

 この返信を機に、ボクは尚のこと興味を抱き、春日太一という書き手本人の裾野を巡るべく、まずは未読であった第一作、『時代劇は死なず! 京都太秦の『職人』たち』(集英社新書 2008年。現・河出文庫に完全版を所収)を取り寄せた。

 

『時代劇は死なず!』は、かつて京都太秦に在った東映、大映、松竹の3つの撮影所が時代劇全盛期を経て、映画からテレビへ主戦場をシフトしていく過程を描き『撮影所版プロジェクトX』というべき、誇り高き映画職人たちの仕事ぶりを描いている。

 読書の順番は前後したが、筆者が26歳の大学院生時代に書かれたと云うこの処女作には、春日太一氏の原点、源流、起点があり、その後の著作、研究に一貫する「映像の作り手は温故知新でなければならない」という主題が明記されていた。

 

 京都太秦は、単なる映像スタジオとは割り切れない雅俗混交の結界である。

 長き伝統が培った現場に揺蕩う、殺気、技術、プロ意識に、若き春日太一氏は慄きつつも、通い詰め、どっぷりと浸かり、その価値を再認識し、次世代へ継承する記録を残した。

 しかし、このデビュー作は、字数制限のタイトな新書の形であり、半分は映画だが、半分はテレビ時代劇の話で、その分、見聞きしたひとつひとつの逸話は断片的になっていた。

第3回に続く

春日太一(かすがたいち)

春日太一

1977年東京生まれ。時代劇・映画史研究家。日本大学大学院博士後期課程修了。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(文春文庫)『時代劇は死なず!』(河出文庫)『仁義なき日本沈没』『市川崑と「犬神家の一族」』(以上、新潮新書)など。


水道橋博士(すいどうばしはかせ)

水道橋博士

1962年8月18日生。岡山県倉敷市出身。漫才師。コンビ名・浅草キッド。受賞歴:第4回 みうらじゅん賞。出演番組:『バラいろダンディ』(TOKYO MX)、『総合診療医ドクターG』(NHK)他。著書:『お笑い 男の星座』、『キッドのもと』。水道橋博士名義では『本業』、『博士の異常な健康』など多数あり。最新刊は『藝人春秋』。有料メールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』を月3回配信中。特技:宅地建物取引、漢字検定(2級)他。

あかんやつら 東映京都撮影所血風録
春日太一・著

定価:本体1,020円+税 発売日:2016年06月10日

詳しい内容はこちら

鬼才 五社英雄の生涯
春日太一・著

定価:本体920円+税 発売日:2016年08月19日

詳しい内容はこちら

天才 勝新太郎
春日太一・著

定価:本体940円+税 発売日:2010年01月20日

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