2014.06.20 インタビューほか

公開対談
綿矢りさ×道尾秀介
小説家は幸福な職業か?

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL(別册文藝春秋 2014年5月号より)

第150回を迎えた芥川賞・直木賞を記念して行われたフェスティバルでスペシャル対談が実現! 普段から親交のある綿矢りさ・道尾秀介の二人が、賞の垣根を越えて語り合った「小説家」という職業の醍醐味とは――

小説は誰のもの?

綿矢 じゃあ次は私から。道尾さん、ミステリーを書かれることが多いと思うんですけど、いわゆる伏線後から「ああ、あれはそういう意味やったんや」とわかる文章ってありますよね。あれ、最初から入れていくのか、それともいったん書いて、後から入れ込むんですか。私、できないので、教えていただけたらと。

道尾 僕の場合、まずスタートとゴールが浮かんでいて、あとは書きながら考えていくことが多いんです。人生で本を読み始めた時期が遅くて、いまだに活字を読む時間や労力が普通の本読みの人よりもかかってしまうという意識があるので、書いたもの、読まれるものを一文字たりとも無駄にしたくない。文章をハンバーグの「つなぎ」みたいにしたくない、すべての文章に意味があってほしいと思いながら書いていきます。それが伏線になっていくんだと思います。

 でも実際には、僕ら、手書きじゃないでしょ? パソコンで書くから、後から戻って伏線を埋め込むということはしやすいわけです。西洋絵画のX線分析みたいに、どういう順番で書いたのか、その手つきを人に知られるのは嫌ですね。

綿矢 そしたら、後入れもけっこう多いってことですか?

道尾 多いですよ。ミステリー色の強いものだと、たった1つのミスで、この話、成り立ちませんってことになっちゃうケースもあるから。

綿矢 じゃあ、長編連載はどうしてるんですか。

道尾 連載は、最後の1行まで書き上げてから編集者に渡しています。それを分割して、順番に発表しているだけ。

綿矢 なるほど! さらに聞いちゃうんですけど、時間とか登場人物とかの設計図は作りますか。ネタ帳みたいなのはあったりするんですか。

道尾 ないですよ。いつもまず、A4の白紙にフリーハンドでメモ書きしたり、矢印を引っ張ったりしながら、どんな作品にするかを考えます。でも、小説って1行目を書いてみないと何も起きないんですよ。いくら頭の中で考えて「できた」と思っていても、1行目を書いてみるとそれが全部無意味になったりもするので、設計図はあえて書かないようにしています。

 じゃあ、こちらから次の質問。小説作品は誰のものだと思いますか。

綿矢 え、誰のもの……? 「もの」って言うならば、やっぱり買ってくれた人のものだと思うんですよ。

道尾 商品としてはね。

綿矢 でも、道尾さんのおっしゃってるのは所有権とか、著作権とかそういうことじゃないんですよね。実感としては、やっぱり書いた人のものじゃないですか。

道尾 あ、そう思います?

綿矢 自分の小説を見返すと、やっぱり、書いた時の思い出みたいなものがあるし、虚実入り交じってはいるけれど、アルバムを眺めるような感じがあるじゃないですか。だからまあ、自分のものだと思えると幸せかなと思いますけど。

道尾 僕は、小説には産みの親と育ての親がいると思うんですよ。産みの親はもちろん僕らだけど、産んですぐ手放しちゃう。そしてそのあと、小説っていうのは10人いれば10人に違う読み方をされるじゃないですか。そこが活字の面白いところで、1つの能動態としてどんどん形が変わっていくわけですね。そんなとき「あなたの親は誰ですか」と小説に聞いたら、育ての親の名前を言いそうな気がする。

【次ページ】心で書いて、頭で書き直す

別册文藝春秋 2014年5月号

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