――今日は、一般には馴染みのない調律師の仕事についても教えていただきたいと思います。特にメーカーの社員ということで、街の楽器店に勤務する外村ともまた違った面があると思います。入社以来、どのような仕事をして来られたのですか?
岩倉 私は5年前までお客様のお宅やピアノの先生のお宅、学校、公共施設のホールなどのピアノを調律していました。現在は全国に214名いる河合楽器の調律師に対する技術研修や、現地からの情報を収集してピアノの品質向上に努めています。
――主人公の外村のようにご家庭を回って調律する場合、どんなところに仕事の難しさがあるのでしょう?
岩倉 ひとことで「調律」と言われますが、その仕事は主に3つに分かれています。アクションと呼ばれる中の機械を調整する「整調」、実際に音を合わせる「調律」、音色(おんしょく)を整える「整音」。音だけを合わせて終わりということがないんです。全てが互いに関連性がありますから、バランスを考えての作業が、なかなか大変です。
それと、本の中にも出て来ますけれども、音に関する表現が人それぞれにあります。硬い音、やわらかい音、明るい音、暗い音、伸びる音、沈んでゆく音など、千差万別です。お客様とのコミュニケーションをして、確認しながら音を作っていくというのは、非常に難しい部分であり、重要な部分だと思います。
村上 そうなんですよ。音を作る作業と調律の組み合わせを言葉で表現するのは非常に難しいのですが、この本ではすごくいい表現で、いろんな表現で書いてくれているので、ああ嬉しいなあと思います。音の表現もすごく素敵な感じです。
それから、高校生の双子の姉妹に対する主人公の思いが丁寧に描かれていますよね。ピアニストたちといかに付き合っていくのかというのも、私たちの非常に重要な仕事の一つになっています。
――村上さんは、どんなお仕事をされていますか?
村上 私は入社以来、ずっとShigeru Kawaiピアノ研究所にいまして、カワイの最高級機種であるフルコンサートピアノ SK-EXというピアノを作る仕事をしております。たとえば、ショパンコンクールのような国際コンクールに出かけていって、我々が開発したピアノに世界のピアニストたちがどういう反応をするか、聞いているお客様がどういう反応をするかということを見聞きした経験をもとに、さらに改良、組み立てていくというサイクルを、ずっと何十年もやっています。
昨年放送されたNHKドキュメンタリー「もうひとつのショパンコンクール~ピアノ調律師たちの闘い~」にも、実は私もちょっと映っています。カワイのピアノを使ったピアニストさんは残念ながら優勝できなかったけれども、「表現するのにあのピアノはすごく性能がいいのね。とても面白い音がする」とか、興味を持っていただけることが多ければ多いほど、私たちとすればありがたいと思います。
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