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ディストピアとしてのアメリカ像

ディストピアとしてのアメリカ像

文:小西 克哉 (ジャーナリスト・キャスター)

『教科書に載ってないUSA語録』 (町山智浩 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #随筆・コミックエッセイ

 逆もある。虫の目から鳥の目だ。バットマンの新作「ダークナイト ライジング」を紹介するが、文豪ディケンズの「二都物語」を下敷きにしているという監督の言葉からフランス革命、「ウォール街を占拠せよ」運動へと展開する。1ドルを出せという銀行強盗の事件からは、医療保険改革の話。難病を抱える犯人には医療保険がないので、刑務所に入れば治療を受けられるとして犯行に及んだのだ。そう言えば80年代、ホームレスが社会問題として登場した時も軽犯罪を犯してムショでタダ飯にありつく人のニュースがあった。そしてTroll(前出)の話題からは宗教の話。ネット上の愉快犯もアメリカでは宗教絡みの人がいて、3・11の後、震災は天罰などと書き込んで炎上したニュース。地震や津波が神の裁きだと発言するいわゆる聖書原理主義者の人たちだ。本書で最多登場回数を誇る(?)サラ・ペイリン女史も同様の福音派原理主義者で、町山ワールドには欠かせないサンドバッグになっている。

 いずれにしても格差や医療保険制度や、宗教原理主義の本質を、虫の目から導入していく手法は「ストリーム」時代から変わっていない。町山さんは今もTBSラジオでこれを実践されていると思う。僕も実は、同局の別番組でアメリカ情報を紹介する際には極力肝に銘じていることだ。町山さんは以前、ウォール・ストリート・ジャーナルよりタブロイド紙を読み、CNNより「コメディ・セントラル」の冗談ニュースで政治経済を知ったと書いていた。CNNもメジャーになったなあ。僕がテレビ朝日で毎日CNNニュースを伝えていた頃は逆にCNNがアメリカの皮膚感覚を伝えていた。もちろん僕たちの番組がCNNの24時間ニュースを取捨選択していたのだが。80年代、90年代のおバカなニュースや、ディープでニッチな話題を毎日のように取り上げたので、アメリカの某有力紙からはかなり意地悪な記事も書かれた。ナンタって公共の電波媒体だからね。一旦新聞が取り上げると、主要ネットワークの東京特派員が追随して僕たちの番組を取材しに来た。どこの国もテレビ屋は同じだね。そしてアメリカの決して誇れない部分を何でそんなに取り上げるんだと「意地悪な番組」のことを意地悪に伝えていた、と記憶している。でも、もともとCNNがアメリカ向けに伝えている話でしょ。CNNに言えよ!(あ、町山節が感染った。)自国で異国を知ることは異文化体験。だが、異国で自国を知ることも異文化体験なのだということをこの外国特派員の例で知らされた。町山コラムの数々がテレビになったら日米関係は大荒れになること必至だ。最初のクレームは外務省からかな。ま、ならないだろうけど。

 評論家川本三郎氏は、町山さんの好きな映画には特色があり、暴力、死、恐怖、不安、孤独、疎外…といった人間の精神の暗部を描く、と指摘されているが、同様のことは町山コラムの取り上げるアメリカ像についても言える。それは我々の世代が往々にして抱いていた憧憬の場所としてではなく、あらゆる事象が過剰に生起するdystopiaであり、それは本人の生活空間の断層でもある。「悩めるアメリカ」は戦前から、日本人知識層にあるアメリカ像だが、町山さんにとってのアメリカはこの様な観念論ではなく、痛いほど現実的な実像である。勿論pop cultureにはやはり惹かれずにはいられないだろうけど。

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教科書に載ってないUSA語録
町山智浩・著

定価:本体730円+税 発売日:2014年11月07日

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