- 2015.05.19
- インタビュー・対談
キャパの人生を追う旅。
もしかしたら、これは僕の最後の大きな旅かもしれない
「本の話」編集部
『キャパへの追走』 (沢木耕太郎 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
――フランスの小さな町シャルトルでふと振り返った瞬間にキャパの写真の場所がそっくりそのまま残っているのを発見したり、ライプツィヒでキャパが最後の戦争写真を撮った建物が奇跡的に残っているのにたどり着いたりと、その足跡との出会いはドラマチックな場面の連続です。沢木さんにとって印象に残る現場はどこでしたか?
実はキャパがどこで撮影したのか、正確にはわからなかったのですが、スペイン内戦の激戦地だったテルエルという街で「磔になった兵士」と呼ばれる樹上の兵士の写真を追っていたときのことです。
もちろんキャパが撮った木が残っているはずもないのだけれど、雰囲気が近い場所もなかなか見つけられないまま、夜バルで酒を飲んでいました。
すると、懐が豊かそうには見えない老人が、生ハムの塊の下の削りカスをつまみ食いしてはワインを飲んでいる。店のバーテンもそれを黙認している。
その情景を見ていて、なんだかいいな、と思ったんです。この老人の人生は、もしかして命を落とさなければ、キャパの未来の人生であり、さらに僕の人生でもありえたかもしれない。
僕が好きなキャパのエピソードに、若かりし彼がパリのカフェで、クロワッサン1つの値段で店員の目をごまかして何個も食べていたという話があります。キャパには、そういう調子のいいところがあった。
けれど、この旅を続けてキャパへの見方が深まっていくと、その調子のよさは次第に、どこかで自分の命を放擲しているような感じに、印象が変わってきた。それは人生を投げているというのとは全然違うんだけれど、彼は命にしがみつく感じがすごく希薄なんですね。大事にしているのは、その日その日の楽しみや、そのときどきに愛着がある人だけという感じがするんです。
旅をする中で、キャパという存在の核心は、「勇気あふれる滅びの道」という生き方なんだと理解できた。それは、この老人に出会ったことをはじめ、旅したからこそわかったことでした。
そして、僕自身も、そういうキャパにシンパシーを持っていて、人として近しい感じを受けるから、ここまで彼を追い続けてきたのかもしれない。
――その「キャパへの旅」にも「ひとつの句点を打てた」と書かれています。
これまで40年こういう仕事をしてきて、僕はいつも何かを求めて旅をしていたように思います。調べたい、知りたいことが常に旅に関連していた。モハメド・アリを追う旅しかり、養蜂家を追う旅しかり。
キャパへの旅もそういうもののひとつでしたが、今こうして終えてみると、もしかしたらこんなに大がかりな旅はこれが最後かも、という気もしています。
――えっ!?
僕だって年齢のことを考えないわけじゃない(笑)。いや、これからしばらくは1年1年の単位で仕事をしようと思っているということですよ。
キャパについてはやり残したこともあと2つあって、それが何かはここでは言いませんが、いつでも偶然はやってくる、というのが僕のモットーだから。そういう偶然にすぐ反応して、動き出せる自由さを持ち続けていたいと思っています。
キャパの魅力のひとつも、とても自由なところですよね。そんな2人の「自由人」が追いかけっこしたんだというような話だと思って、この本もいろいろな世代の人に楽しんでもらえるといいですね。
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