書評

神と悪魔は同一人物? 佐藤優さんと共に読んだ聖書の物語

文: 中村 うさぎ

『聖書を読む』 (中村うさぎ・佐藤優 著)

 学校で習ったキリスト教の知識はほぼ「光の知識」であったが、私はむしろ「闇の知識」に興味を持った。非言語的であるがゆえに、その世界はメタファに満ちており、探検しがいのあるものだった。まるで夢の中のように、その世界には知識や記憶の断片がパズルのパーツのように散らばっていて、私はその破片を繋ぎ合わせて物語を組み立てる。それは、じつにワクワクする作業である。

 何年も前から、私はずっと「書きたいことが何もない」と嘆いていた。が、今は旧約聖書の物語を自分なりの解釈で再構築するという素晴らしい作業に出会い、久々に「書く喜び」を味わっている。これも、この対談本で私にさまざまな知識や示唆をくださった佐藤優氏と、私に聖書について書くことを勧めてくれた伏見憲明氏のおかげだ。この二人には語りつくせないほどの感謝の念を抱いている。

 今回、この対談本の文庫化にあたって、久しぶりに対談を読み返した。当時の私の考えと今の私の考えは必ずしも同じではないが、それがどう変化を遂げたかは『うさぎ版創世記』のほうで表現したいと思う。そして、その本を一番に読んでいただきたいのは佐藤優氏だ。

 私は神や悪魔が実在するとは信じていない。ただ、神や悪魔の「解釈」には非常に興味がある。それは人間の魂の「核」だと考えるからだ。神話はこの世界や宇宙の成り立ちではなく、人間の心の成り立ちについて語っている。その「核」は、昼の世界では「言葉で紡がれた物語」として、夜の世界では「メタファによって語られる夢」として、我々に受け継がれていく。

 私は自分の人生を「解けないパズルを必死で解いているようだ」と感じていて、しばしば著作内でそう語っているが、もしかするとそのパズルは昼の言葉と夜の暗号の両面から解くべきものなのかもしれない。私はこれから自分の中の昼と夜を繋げていこうと思う。そして、私がずっと取り組んできた「私とは何か」「人間とは何か」という難解なパズルを解きたいと思っている。たとえ正解には辿り着けないとしても(私の知能レベルでは無理だろう)、いつか誰かが私の謎解きの後継者となってくれることを夢見ながら、私は今日も問い続け、パズルを組み立てては書き続けるのだ。

 

 二〇一五年十二月

(「文庫版のためのあとがき」より)

聖書を読む
中村うさぎ、佐藤優・著

定価:本体780円+税 発売日:2016年02月10日

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