2005.11.20 書評

ケッタイな問題と私

文: 角岡 伸彦 (フリーライター)

『はじめての部落問題』 (角岡伸彦 著)

 部落問題という言葉で何を思い浮かべるだろうか。「なに、それ?」から「もう、勘弁して」まで、人によってさまざまだろう。

 被差別部落で生まれ育った私は、当事者にして取材者でもあるのだが、実を言うとこの問題には長いあいだ違和感を持ち続けてきた。私がこの問題に関心があるのは、一世紀以上も前に廃止された身分制度の名残りが、いまだに残っていることへの違和感である。

 違和感がありながらなぜ関心があるのかというと、私は他人があまり目を向けないものに惹かれるのである。有名レストランよりも場末の食堂、大通りよりも路地裏を好む。ピンク・レディーだと、垢抜けたミーよりも演歌歌手っぽかったケイの方が好き。

 そんな私に、部落問題はぴったりである。なにしろこの問題は、多くの人が語りたがらないタブーである。マイナー好みの私にはうってつけである。

 趣味として関心を持つにはいいが、知らない人に部落問題を説明するのは、とても骨が折れる。部落の起源や歴史について書かれた書物はあまたあるが、現状に関する素朴な疑問に答えてくれるものは、ほとんどない。こうなったら、自分で書くしかない。

 章立てはすぐにできた。構想五分だった。部落とは何か、部落民とは誰か、どんな差別があるのか、なぜ部落差別は残っているのか、どうやったら差別はなくなるのか、同和教育は必要か……。部落問題を考える上で避けては通れないテーマを、私が見聞きした話をふんだんに盛り込みながら書き進めていった。構想は五分だったが、執筆には半年以上かかってしまった。

 単純かつ素朴な疑問をわかりやすく説明するのは難しい。「この問題はこう考えてください」と説教臭くなった章もあったが、すべて書き直した。建前やキレイゴトを極力排除したので、同和対策事業で得をしたという私の話も書いた。部落民は関係概念であるという学説(俗説?)や、部落解放運動に少なからず影響を与えてきた部落解放同盟の現状認識や解決方法についても疑問を呈している。この業界で、ますます私は嫌われるに違いない。

『はじめての部落問題』というタイトルにあるように、まずはこの問題をまったく知らない人に読んでもらえるよう、読みやすさとわかりやすさを心がけた。「はじめて」には、これまであまり触れられなかった、触れても建前に終始していたテーマや見方についても踏み込んでますよ、という意味もこめている。

【次ページ】

はじめての部落問題
角岡伸彦・著

定価:本体730円+税 発売日:2005年11月18日

詳しい内容はこちら



こちらもおすすめ
書評『異邦人』解説(2014.07.10)
インタビューほか人の世の哀しみを妖怪に托して(2012.03.16)