
坂道を転がり落ちる人には愛の杖を、痛ましい人には惻隠(そくいん)の情を、愚かな人には天然の愛嬌を。笑いの下に、そういった人間愛が無言の海のように広がっているのが、荻原浩の短篇世界だと私は理解している。そこで冒頭で書いた「含羞のひと」に戻りたい。女友だちと居酒屋でこんな話もした。
「荻原さんって感涙ものになりそうなテーマだと、すごく言葉を少なくして、淡泊ともいえるような感じで書いてない?」「うん、これでもかってツボをぐりぐりするようなエグさを避ける。盛る自分に、照れるんじゃないかなあ」「それなのに、失笑や顰蹙(ひんしゅく)を買うような状況に主人公を放り込むと、俄然張り切る」「そういうときは照れてないよね。一言も二言も多い」「その一言二言のキレがまたいいのよ。笑いのツボはぐりぐりしてくる」「世間的にはストレートな感動ものが受けるんだろうけど、作家的には荻原さんの王道はこっちじゃない?」「悲哀を描く作家だよね。悲劇はユーモアでくるめないけど、悲哀は人間喜劇の下に上手に隠せる」「ああいう態度のことを“含羞のひと”って言うんじゃないの」「うん、それにも一票入れる」
いま思えば、女ふたりで焼酎お湯割りを飲みながら荻原談義に花を咲かせ、恋バナやモテバナのひとつもできない私たちは、完全にやさぐれている。女のやさぐれは、ユーモア短篇の素材になり得るだろうか。無理? これって悲劇?
電子書籍
幸せになる百通りの方法
発売日:2014年09月19日
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