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見えているものの先にある“真実”を掴め

見えているものの先にある“真実”を掴め

「オール讀物」編集部

杉田成道(日本映画放送株式会社 代表取締役社長)

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#ノンフィクション

『ルーズベルトの責任』はビーアドというアメリカ人の歴史家が、「戦争の一部の原因は自国の大統領にある」と書いた本です。ルーズベルトは、アメリカ国民に対して「絶対に戦争はやりません。みなさんの子どもを戦地に送りません」といいながら、自身は戦争を決断し、準備を進めていたというしたたかな政治家だったようです。アメリカは、イギリスの利権をもぎ取るためにヨーロッパ戦線に進出したいが、その大義が得られない。そこで、資源を持たない日本を追い詰めて、戦争の舞台へと引きずり込む。歴史を冷静に振り返ってみると、そう見えてくるんですね。我々の歴史教育は、戦争への反省から始まりますが、なぜ戦争が起きたのか、をフラットに理解することは、現代社会を読み解く上でも大切だと思います。

 人類の考え方の流れが、一冊で理解できる哲学の入門書が『反哲学入門』です。かつて、プラトンとアリストテレスがギリシア哲学の基礎を作って、それ以来、ヨーロッパの考え方はまったく変わってこなかった。資本、つまり富を持つ者と持たざる者の対立で世界が回ってきた、ということがよくわかります。ニーチェがそれに対して初めて反論して、流れが変わった、と。物事を考えるためのトレーニングとして、高校生くらいにぜひ読んでもらいたいですね。

『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前』『――以後』には、私がいつも胸に刻んでいる一節があります。

 ――人間は、自分が見たいと思う現実しか見ない――です。

 大東亜戦争の日本軍もそうだし、自分も含めて、我々すべてに当てはまる言葉ですよね。社長になって会社の業績を背負ったときに、見たい数字しか見ていないということをさらに実感しています(笑)。

 冒頭で申し上げた、我々が視聴者に投げかけたい「ある種の感情」は、時代とともに変わっていくものです。「見えていることの先にあるもの」をしっかりと掴んで、これからも良い番組を作っていきたいですね。


お勧めの5冊

・『風と共に去りぬ』 (M・ミッチェル 著) 岩波文庫

・『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』 (梯久美子 著) 新潮文庫

・『ルーズベルトの責任 日米戦争はなぜ始まったか』 (チャールズ・A・ビーアド 著) 藤原書店

・『反哲学入門』 (木田元 著) 新潮文庫

・『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前/以後』 (塩野七生 著) 新潮社

杉田成道(すぎた・しげみち)

杉田成道

1943年、愛知県生まれ。1967年、フジテレビに入社。『北の国から』シリーズなどを演出。映画『最後の忠臣蔵』の監督を務め、2001年、日本映画放送の社長に就任

会社メモ:2000年に設立。時代劇だけを365日放送する『時代劇専門チャンネル』と『日本映画専門チャンネル』の番組編成や、その放送・供給を行う。オリジナルの時代劇、映画も多数制作

オール讀物 2016年12月号

定価:980円(税込) 発売日:2016年11月22日

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