
独自の学習法を通して、自学自習で高校教材を人生の早い時期に修了させることを目指す公文教育研究会。昨年社長に就任し「本がないと生きていけない」と語るほどの読書家である池上氏に教育と読書の関係、そして愛読書への思いを聞いた。

弊社は、創始者の公文公(とおる)が息子に算数の教材を手作りしたことが始まりです。創始者は算数だけでなく、読み聞かせなどの読書教育にも熱心で、長男は小学校入学時には高学年向けの雑誌が読めるほど高い読書力だったそうです。公文は当初から数学と読書を二本柱に据えていました。
公文では「健全で有能な人材の育成」を目指しています。有能は様々な課題に立ち向かう能力です。一方、健全さとは、状況や相手の気持ちを考慮するバランス感覚が問われます。そこで読書が重要になるのです。創始者には「大学を出てからも本を読む人に」という言葉があり、いつまでも自分を磨く人間に育ってほしいという思いがありました。
最初にあげるのは、まさに私に考える場を与えてくれた本です。大学時代哲学や思想に関心があり、関連書籍を読みましたがあまり面白くなかったんです。たとえばカントの『純粋理性批判』は何度登っても途中墜落してしまうような難しさがありますよね。読書というのは自分で考えることが醍醐味なのですが、一生懸命理解しようとすると、それができない。そんなときに出張先の京都の本屋さんで野矢茂樹さんに出会ったんです。彼が問題にしていることは、他者の心や自分の身体など、ごく身近にある題材から哲学に導いてくれるので分かりやすい。帰りの新幹線で、一章一章自分の頭で考えながら読むことができた。そこから野矢さんのファンになりました。
次は加藤陽子さんの『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』です。私は大学で歴史を専攻していましたが、この本は歴史を再構成する視点、そして語り口が素晴らしいんです。ここでの問いは、“なぜ戦争が起こったか”ではなく、“なぜ日本人は戦争を選んだか”です。事柄に対する適切な問いの立て方が、知性の働かせ方の見本だと思いました。現在や未来を考えるときに歴史的な事例の蓄積が重要だという加藤さんのご意見に同感して、社長就任以降、私も弊社の歴史を改めて学び、社員へメッセージを伝えました。
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『日暮れのあと』小池真理子・著
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