デーブ・スペクターさんのマカロニチーズ
──連載第1回にデーブ・スペクターさんが登場した時は、「食」のイメージがあまりなかったので驚きました。
食に対して興味がなさそうに見えても絶対に何か話すことを持っているという確信があったからこそ、第1回をデーブさんにお願いしたかったんです。
お母さんが作ってくれたマカロニチーズの話に行き着いたときは、デーブさんの記憶が開いた瞬間を感じましたね。黒く焦げたバターの味を、「僕にとって、それ、グルメ」とおっしゃったとき、自分にとって大事なものがあれば生きていけるという幸福な孤独感に接したようで、じーんとして感銘を受けました。こういう強固な記憶があれば人は生きていける、食べものはそれを支える存在でもあるということを痛感しました。ときに、食べものは、その人の持っている幸福感と孤独感、その両方を浮き彫りにして奇跡的な瞬間をもたらすことがあります。
──他にも、印象的なエピソードがたくさんありました。伊藤比呂美さんが大好きで多いときは五つも六つも食べるという生卵。安藤優子さんが「チャーリー」と名前をつけていたという糠床。田部井淳子さんが山に登る時に「これだけは持って行く」というわさび。髙橋大輔さんが探検に行く前に必ず食べるというカツ丼……。金子兜太さんの「本当に好きな食べものなんていうものはあらへんのです」という言葉も、印象的ですね。
生きている限り、ひとは食べるという行為から逃れられないし、それは作家でも、アスリートでも、芸人でも同じことです。みなさんと話していて感じたのは、食にまつわる言葉は、深いし、強いということ。情景が浮かぶような記憶や、身体性と直結する感覚、それに、その人のありかた自体……いろんなものがその言葉に現われていると思います。
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