書評

女性たちのさまざまな『雛形』を描いた、今、最も『読ませる』時代小説シリーズ

文: 大矢 博子 (書評家)

『山吹の炎 更紗屋おりん雛形帖』 (篠綾子 著)

 さて、私は冒頭で、「職業小説」「歴史小説」「恋愛小説」の三つの側面が大きなひとつのテーマに収斂されると書いた。そのテーマとは、女性の生き方、である。

 本書にはさまざまな女性が登場する。悲恋ののち、政治的な理由で江戸城大奥へ入ることになる熙子(のちの綱吉側室・寿光院)。女性染師を目指すおみつ。恋に身を投じたお七。夫を失ったおしづ。病弱な体で、丁稚の少年を愛おしむおせん。既刊に登場した沼田藩の松姫や老女・杉下初音。

 そして、腕に技術を持ち、仕事に喜びを見出しながらも、家のために添うべき男性と好きな男性の間で揺れるおりん。

 元禄という安定した時代で、女性は少しずつ、自分で道を決めることができるようになっていた。けれどその一方で、厳然としてはずせない枠もあった。そんな女性たちの、さまざまな「雛形」が本書には、ある。

 自分がしたいことと、周囲に望まれていることの齟齬。現代も同じかもしれない。「更紗屋おりん雛形帖」は、どうしようもない枠の中で、それでも決して後悔しないように、自ら決断し続ける女たちの雛形帖なのである。

 

 最後になったが、著者・篠綾子について紹介しておく。

 二〇〇一年、『春の夜の夢のごとく 新平家公達草紙』(健友館)でデビュー。その後、『義経と郷姫』『山内一豊と千代』(ともに角川書店)、『浅井三姉妹 江姫繚乱』(NHK出版)など、歴史小説を手がけてきた。

 ブレイクポイントになったのは、二〇一四年に出た本シリーズ一作目『墨染の桜』だ。

 これまでの路線を大きく転換した本シリーズで、一躍注目を浴びた。だがもちろん、従来の古典文学への素養と愛着がベースにあるのは変わらない。同年に出た『藤原定家・謎合秘帖 幻の神器』は藤原定家を探偵役に据えたミステリで、著者のお家芸が光っている。こちらもシリーズ化され、二作目『華やかなる弔歌』も二〇一五年に出版された。

 前述の『梨の花咲く 代筆屋おいち』と、昨年十二月に出たばかりの『月蝕 在原業平歌解き譚』(小学館文庫)も加えると、書き下ろしの時代小説シリーズだけで一年半の間に七冊を出しているのである。

 羽化した、と言いたくなるほどの活躍だ。

 文庫のシリーズものだけではない。単行本の最新刊『白蓮の阿修羅』(出版芸術社)は、天平を舞台にした壮大な歴史ロマネスクだ。

 これから先が実に楽しみである。息切れしないようにと願いながらも、それでもできるだけ早く次が読みたい――そんな矛盾する思いを読者に抱かせるような、まさに旬の作家なのである。

山吹の炎 更紗屋おりん雛形帖
篠綾子・著

定価:本体670円+税 発売日:2016年02月10日

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