- 2015.07.04
- インタビュー・対談
鯖江では、400年前からオープンイノベーションやってます!
福田 稔 (日本ビジネスインキュベーション協会理事)
『福井モデル 未来は地方から始まる』 (藤吉雅春 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
藤吉雅春さんの、地方再生をテーマにしたルポ『福井モデル 未来は地方から始まる』刊行を記念し、東京都中央区の八重洲ブックセンターで、対談とサイン会が開催されました(6月9日)。対談のお相手は、書籍にも登場する福井県鯖江市長の牧野百男氏。消滅可能性都市と名指しされる自治体が全国に広がるなか、人口が増えている理由は何か。起業家を育てるインキュベーターの草分け的存在である福田稔さんが司会を務めました。会場では、メガネの町・鯖江ならではのペーパーグラス((株)西村プレシジョン)の展示や、物産展(ちよだいちば)も行われ、賑やかに福井の雰囲気を盛り上げました。
地方再生には「大阪化」と「京都化」がある
福田 福井県と言えば、幸福度ランキングで常にトップクラスを占めることで知られています。実は、霞が関や永田町でも、かなり以前から注目を集めていて、4月にはついに安倍首相が鯖江市を訪問しましたね。藤吉さんが地方再生モデルとしての福井に注目したきっかけは何ですか?
藤吉 実は、大阪を取材したことなんです。僕が「大阪化と京都化」と呼ぶ現象があって、大阪では地場産業が成長しても、たいてい東京へ本社を移してしまう。ところが、京都は京セラ、ワコール、日本電産、村田製作所など成長企業は、地元に残り続けることが多いんです。この違いは何なのか。
大阪は、松下幸之助の時代から地盤沈下を嘆き続けている「ジワジワ型」で、これが「大阪化」の特徴です。しかし京都は、明治維新の頃に天皇が東京へ移ったことにより、一気に壊滅的な打撃を受けました。たったの4年間で33万人から24万人まで人口が減るドン底を味わい、そこから再生したんですね。
「底付き体験」という言葉があります。何事によらず、再生のためには一度ドン底を味わう体験が必要で、福井はこの「京都化」の典型ではないか、と考えたのです。
福田 つまり、危機感の共有ですね。市長はどう思いますか?
牧野 福井県はね、実は負け戦の歴史なんです。南北朝時代に、南朝側の新田義貞が越前国で戦死。戦国時代は朝倉義景が織田信長にやられ、安土桃山時代になると柴田勝家が豊臣秀吉にやられた(笑)。それで、人情的にも風土的にも、憐みの情や互助の精神が生まれた、とも言われています。浄土真宗の影響も大きいですよ、親鸞や蓮如上人の布教の地であり、その教えは今も生きています。
藤吉 取材をすると、福井県がうまく行っている理由を、「一向一揆で負けましたから」と答える人が、一人や二人じゃない(笑)。福井県の勤労者世帯の実収入は2010年に東京都を抜いて全国一位になりましたが、共働きが多い。三世代が助け合う風土は、貧しさにも理由があると思います。
牧野 雪国で、昔はその日の暮らしにも困ったわけです。鯖江は川が多くて、常に洪水に悩まされる。米も満足に作れない。そこで、メガネや漆器、繊維を作る技術を外から持ち帰り、農閑期の仕事用に教える人が出てくるわけです。
例えばメガネを作るには、細かく数えれば200から250の工程があります。それをみんなで分業して製品を作るのです。儲けを考える以前に、この地域でどう生き残れるか、が先なのです。