- 2015.11.16
- 書評
ゲームのような騙しあいが華麗に繰り広げられる極上の美術ミステリー
文:柴田 よしき (作家)
『離れ折紙』 (黒川博行 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
そして時が経ち、人は芸術を金に換える方法を知った。芸術は生活の術になり得るものとなり、やがて、生きる為に美しいものを奪い合い、美しいものが生み出す金を奪い合う人間が誕生した。
そうしてみれば、彼らはただの詐欺師ではない。彼らは結局のところ、美しいもの、から離れて生きられないのである。他にいくらだって食べていく道はあったはずなのに、いつの間にやら美術品の沼に沈み、そこから出ようとはしない。
美術、骨董品をとりまく魑魅魍魎たちもまた、哀れな芸術の奴隷なのだ。
そんな哀れな人々の滑稽な騙し合いが、音楽的な文字配列の関西弁にのって華麗に展開する。なんという贅沢、なんという悦楽。黒川ワールド中毒のわたしにとっては、まさに極上の読書体験であった。
本当に、黒川さんは出し惜しみしない。本書に収められた作品ひとつずつのネタ一個で充分長編が書けるところを、端正に短編に収めてしまって涼しい顔である。わたしのように、いつもネタに困って右往左往してばかりいる駄目作家からみると、激しく嫉妬してしまうほどの才能である。
でも最近は、黒川作品を読んでも嫉妬は感じなくなりました。だって才能が違い過ぎるんだもん。しょせん勝負していただける相手ではなし。ならば潔く、愛読者になりきってしまうしかないのです。
そう、わたしは今、いや今後もずーっと、黒川作品の熱烈な愛読者です。次の本が出るのを毎日待っています。疫病神の連載、いつ本になるのかな。まだですか? 振り込め詐欺の物語も続編ありませんか? 情けない美術の先生のお話は? 大阪府警のシリーズはどないなりました?
まだですか、まだですか、まだですか?
ふふふ。
解説のふりをして、迷惑なファンレターになってしまいました。鬱陶しいでしょ?
でも黒川作品ファンの皆さんはみんなこんな気持ちでいるはずです。ふふふ、どんなに鬱陶しくても、逃げられませんよ、黒川さん。
だって、あんまり面白いんですもん。
本書で初めて黒川作品と出逢った方が本当に羨ましい。これからたっぷりと黒川ワールドが堪能できるなんて。これから疫病神シリーズや美術骨董シリーズを最初から読めるなんて!
どうかゆっくりと楽しんでください。
そうそう、黒川ワールドには関西が舞台ではないシリーズもありますし、エッセイもとても面白いんです。どれもこれも一級品です。楽しいですよ。ああ、羨ましい。わたしも今年二度目の黒川作品再読週間に突入します。
追記 光栄にも黒川さんから文庫解説を、とのお話があった時、ちょうど、藤原伊織さんの作品を読み返しておりました。遠い昔、銀座のバーで、黒川さんと藤原さんが飲んでいらっしゃるお席に少しだけお邪魔したことがありました。あの時の伊織さんの明るい笑顔と、それに応じていらっしゃった黒川さんのおだやかな笑い顔、心の中のアルバ厶に、大切な一枚として貼らせていただいております。
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