松本清張賞受賞のデビュー作『烏に単は似合わない』に連なる「八咫烏シリーズ」は、烏の姿に転身する能力を持つ一族が支配する異世界=「山内」を舞台にした和風ファンタジー小説。着実にファンの心をつかみ、累計18万部を突破した。毎夏の刊行を心待ちにする読者も多いのではないだろうか。
巻を重ねること4度、待望の最新刊は、がらりと趣を変えた青春学園物語で意表を突かれた。
「幼い頃から『ハリー・ポッター』を愛読していて、その影響をかなり受けました。本作の舞台となる『勁草院』は日本版ホグワーツ魔法魔術学校のイメージです」と阿部さんは語る。
「勁草院」は、山内を統べる族長一家の近衛隊・山内衆の養成所で、元気のいい10代の男子たちが日々鍛錬に励む様に心ときめくこと間違いなしだ。
「勁草院は以前から温めていたモチーフ。『烏に単は似合わない』の執筆時から作中にちらりちらりと紛れ込ませたりして、虎視眈々と書く機会を狙っていたんです(笑)。院生が修める兵術や礼楽といった学問や、院内で身につける揃いの羽衣など、学園モノならではのディティールを描くのはとても楽しかった」
前作の『黄金(きん)の烏』では八咫烏を喰らう大猿の襲撃を受け、山内は恐怖の底に陥った。宗家の皇太子・奈月彦に忠誠を誓う元近習の雪哉は、外敵の脅威に対抗すべく、勁草院の門を叩く。
「今回書きたかったテーマの一つが、八咫烏の“身分の差”です。前3作では朝廷のある中央をメインに物語が展開するので必然的に貴族階級である『宮烏』の視点が多かったけれど、この書き方では不十分だという思いがありました。というのも、山内には町中で商業を営む『里烏』や、地方で農業に従事する『山烏』といった庶民階級も存在するからです。
勁草院は様々な身分出身の八咫烏が集い、同じ土俵で切磋琢磨しあう学び舎です。そこで炙り出される階級意識を描きたかった」
時にぶつかり合い、時に深い友情を育む若人たちの群像劇に加え、宗家の族長の座を巡る政争からも目が離せない。数十年に一度生まれる完全無欠の統治者「真の金烏」と目されていた奈月彦だが、その必須条件を満たしていないとの理由で、皇位継承に待ったがかかる――。
「実は『真の金烏』がどのような存在か、という肝の部分を未だ明かしていないんです。『空棺の烏』はシリーズにおける起承転結の承に当たり、まだ書けていないエピソードが山程あります。続編を期待してください」
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