- 2016.07.21
- 書評
作家・阿部智里と女子高生・阿部智里。8年の時を経た最新作『玉依姫』
文:阿部 智里
『玉依姫(たまよりひめ)』 (阿部智里 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
シリーズの正真正銘のエピソード0
私にとって、執筆作業とは化石の発掘に似ている。無作為に埋もれているアイデアを雑念の中から掘り起こし、意味のあるものとただの石ころとに分別し、試行錯誤を繰り返しながら、作品という名の恐竜の形に組み上げる――。
さしずめ、『山内』の語はオパール化したティラノサウルスの牙である。地表にちょこっと覗いているだけで、まだ地中に何が埋まっているかは分からないけれど、何だかすごいものを見つけてしまった気がする、と。その予感は見事に当たり、高校時代の『玉依姫』では脇役だった八咫烏達を主役として、いわばスピンオフの形で書いた『烏に単は似合わない』は、私のデビュー作となった。それに続く形で「八咫烏シリーズ」は展開し、シリーズ五作目という形で、『玉依姫』へと戻って来ることが叶ったのである。
八年前の稚拙な作品のリライトは、苦痛の連続だった。しかし、高校版『玉依姫』には、今の自分にはない圧倒的な熱量があった。物語の主人公は女子高生なので、当時、女子高生だった私だからこその等身大の叫びには、学ばされる部分も多くあった。
今回出版される『玉依姫』は完全な新作と言うよりも、作家・阿部智里と、高校生・阿部智里――二人の人物による合作、と言った方が正確かもしれない。物語と作者、ふたつの意味で時空を越え、正真正銘のエピソード0である『玉依姫』。
かつての私ともども、読者の方に楽しんで頂ければと願っている。
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