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「欧州におけるドイツ」は、「アジアにおける中国」か?

「欧州におけるドイツ」は、「アジアにおける中国」か?

文:文春新書編集部

『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』 (エマニュエル・トッド 著/堀茂樹 訳)


ジャンル : #ノンフィクション

 たとえば、「ドイツと比較される東アジアの国といえば、なにかについて日本が対象にされ、日本人自身もなんとなく日独両国の間には共通性が多いと思いこんでいる」と指摘する歴史学者の野田宣雄氏は、次のように述べている。

「だが、実際には、冷戦の終結を境として、日独両国は決定的に異なる道を歩みはじめるようになったと考えた方がよい。(略)統一後のドイツが明らかに『中欧帝国』形成の道を歩もうとしているのにたいして、日本には、東アジアで『帝国』を形成しようとする意志もなければ、そのための地政学的あるいは歴史的な条件も乏しいからである。結論を先にいえば、ヨーロッパにおけるドイツと同様に東アジアにおいて『帝国』を志向しているのは、中国であって日本ではない。(略)もちろん、ドイツのめざす『中欧帝国』と中国が志向する『中華帝国』とでは、その内容も性格も大いに違う。しかし、重要なのは、地域の中心部における『帝国』の建設にともなって、周辺の諸国家が深刻な影響を受けるという点では、ヨーロッパも東アジアも同じだということである。(略)その意味では、現在の日本がおかれている国際的な位置は、ヨーロッパにおけるドイツのそれよりも英、仏、伊といった諸国のそれと比定すべきであろう」(『二十世紀をどう見るか』文春新書)

 トッド氏によれば、ドイツの擡頭は、アメリカ帝国の衰退と連動している。

「一九四五年の勝利の遺産、アメリカによるヨーロッパの制御の鍵、それはドイツをコントロールすることだ(略)。二〇〇三年からのドイツの擡頭を確認すること、それはアメリカ帝国の崩壊の始めを確認することだった」(三一~三二頁)

 こうした地政学的な変化は、ヨーロッパに限られない。アジアも同様だ。「アメリカシステムとは、ユーラシア大陸の二つの大きな産業国家、すなわち、日本とドイツをアメリカがコントロールすることだ」(六一頁)とした上で、トッド氏は次のように言う。

「こんな体たらくのアメリカ、配下の国々がそれぞれの地域でおこなう冒険的行動をもはやコントロールできず、むしろ是認しなければならない立場のこのアメリカは、それ自体として一つの問題となっている。(略)アジアでは韓国が日本に対する恨み辛みのゆえに、アメリカの戦略的ライバルである中国と裏で共謀し始めている」(三四頁)

 しかし、トッド氏は、中国の「実力」について、「中国はおそらく経済成長の瓦解と大きな危機の寸前にいます」(一一八頁)と付け加えることも忘れない。

 というのも、「中国は、西洋資本主義の利益計算の道具」で、「西洋の企業からしてみれば、目にしたこともないような利潤をもたらしてくれる国」で、「西洋の資本主義にとって、中国を肯定的に言うことには利益がある」が、「共産党の指導者たちは、決して主人ではない」のであって、「彼ら自身も、自分ではコントロールできない力の支配下にある」からだ(「腐敗は『頭部』から始まっている」『中央公論』二〇一四年五月号)。

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「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告
エマニュエル・トッド・著/堀茂樹・訳

定価:本体800円+税 発売日:2015年05月20日

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