- 2015.06.10
- 書評
「欧州におけるドイツ」は、「アジアにおける中国」か?
文:文春新書編集部
『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』 (エマニュエル・トッド 著/堀茂樹 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
したがって、経済面で中国が単独で覇権を握ることはないとトッド氏は見る。
「もう一つのシナリオは、ロシア・中国・インドが大陸でブロックを成し、欧米・西洋ブロックに対抗するというシナリオだろう。しかし、このユーラシア大陸ブロックは、日本を加えなければ機能しないだろう。このブロックを西洋のテクノロジーのレベルに引き上げることができるのは日本だけだから」(七一頁)
では軍事力についてはどうか。
中国は「軍事的パワーという観点から見て、未ださほど大きな存在ではない」(三五頁)とトッド氏は言う。
「二つの理由で〔日米との〕戦争は不可能です。米国の核兵器の存在と中国の軍事技術の水準の低さです。二年前に中国海軍に関する記事を読んだことがあります。中国はロシアから空母を購入し、その使い方を学んでいるとありました。それを読んで私が何を思ったか。この地域の最近の歴史を振り返ってみれば、ここには巨大な海軍力を有する二大国、すなわちアメリカと日本が存在していた、ということです。太平洋戦争とは、空母を使いこなし、空母を発明さえした二大国間の戦いだったのです。(略)もし中国軍が海洋に出て行き、勢力を拡張しようとすれば、海空戦を経験した世界でただ二つの国、日本とアメリカの同盟に向き合わなければならない、ということです。まったく馬鹿げたことです!」(「腐敗は『頭部』から始まっている」)
しかし、見逃せないのは、擡頭するドイツと中国の接近であろう。
「『ドイツ帝国』は最初のうちもっぱら経済的だったが、今日ではすでに政治的なものになっている。ドイツはもう一つの世界的な輸出大国である中国と意思を通じ合わせ始めている。果たしてワシントンの連中は憶えているだろうか。一九三〇年代のドイツが長い間、中国との同盟か日本との同盟かで迷い、ヒトラーは蒋介石に軍備を与えて彼の軍隊を育成し始めたことがあったということを」(三七頁)
二〇一五年三月に来日したドイツ首相のメルケル氏。二〇〇五年の首相就任以来、ほとんど毎年のように中国を訪問していながら、来日は実に七年ぶりのことだった。滞在中は、「歴史認識問題」をめぐる発言が話題になったが、訪日の真の目的はどこにあったのか(ロシアへの接近を図りたい安倍政権への牽制という見方もある)、東欧諸国との「和解」をめざした戦後ドイツの「東方外交」も、実は周到な計算にもとづくものではなかったか──こういった動きを読み解く上でも、本書は、多くのことを教えてくれるだろう。
ここで示したのは、ヨーロッパの危機を主題とした本書を極東の日本で読むための「補助線」のひとつにすぎず、トッド氏の発言から何を読み取るかは、もちろん読者の自由である。
本書の刊行を快諾していただいたトッド氏と、翻訳していただいた堀茂樹氏に謝意を表したい。
(「編集後記」より)
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