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丸の内OLの人生を変えた一冊

丸の内OLの人生を変えた一冊

文:今野 楊子 (ライター(鶴岡市上畑町在住))

『奇跡のレストラン アル・ケッチァーノ 食と農の都・庄内パラディーゾ』 (一志治夫 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンフィクション

 ここ庄内とは遥か遠いところで生まれ育った私には、経験する何もかもが目新しく、興味深く映ります。この感動を、言葉にして残しておかなくちゃ、誰かに伝えなくちゃ。いつしかそんな気持ちが芽生え、これまで経験したことがあったわけではないのですが、食や地域に関わるお話を聞いて文章にするという機会が増えていきました。

 例えば庄内の春、こんな場面に出くわすことも珍しくありません。

「今年の孟宗(竹)食っだ(食べた)が?」

「いや、地元のはまだだの」

「やっぱり孟宗は湯田川だぜの」

「んだの。湯田川もうめけど(美味しいけど)、谷定のもうめぜ」

「今年は雪が多かったさげ、いつもより遅れてるみでだの(遅れているみたいだね)」

「孟宗もうめけど、月山筍も楽しみだ。あぁ、月山筍の天ぷら、食いでのぉ(食べたいね)」

 どうですか、この会話。ちょっとすごいと思いませんか。

 タケノコひとつとっても、どこのが美味しい、時期はいつだ、俺の好みは何だと、話のネタにしてしまう庄内人。この食に対する知識とこだわりは、なかなか他に類を見ないと思うのです。

 夏も秋も冬も同様に、山から海から、川から里から。庄内一円から集う多様な食材で、話題は持ちきりです。暮らしの中心に食があり、季節ごとに楽しむ食材があり、しっかりと味わい尽くすという文化が残っている庄内は、「豊か」という一言に尽きます。

 まさに食の楽園だと、感じずにはいられません。

 

 庄内に来てから始めたことが、もうひとつあります。それは、畑しごと。

 暑いのも寒いのも苦手、できれば汗なんてかきたくないし、日に焼けて汚れるのなんて、もってのほか。非効率なことは大嫌い。

 そんな典型的な現代人だった私も、変わるのですね。生産者と話をするためにも基本的なことは経験しておこうと、思い切って始めた家庭菜園。自分が一番驚いていますが、今では畑しごとが生活になくてはならないものになりました。

 自分でつくった野菜は美味しいでしょうと、よく言われます。けれど案外そうでもなくて、むしろ農家さんがつくる野菜の立派さ、美味しさに改めて驚くことの方が多かったりします。

 美味しい作物をつくることは、実はとっても難しい。身体に優しいものを、と思ったらなおさら。

 経験したことにより、今まで見えていなかったことが見え、考えたことのなかったことを考えるようになりました。今では農家さんの技術や努力、そして飽くなき探究心に、心から敬服しています。美味しくて安心できるものを届けたい、そんな彼らの優しさに対し、数十円、数百円払うことを惜しんでいてはいけませんと、声を大にして伝えたい。

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奇跡のレストラン アル・ケッチァーノ
食と農の都・庄内パラディーゾ

一志治夫・著

定価:本体680円+税 発売日:2015年03月10日

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