また、畑は時に、壮大なことを教えてくれたりもします。
手のひらに乗せられていた小さな小さな種たちは、土の中で殻を破り、地上に柔らかな芽を出します。大きくなるのに必要なのは、水と太陽、たったそれだけ。ぐんぐんと勢い良く背を伸ばし、枝を広げ、やがて花を咲かせます。
今度は風や生き物の力を借りて花粉を運び、実を生らせます。鳥や動物、人間たちにおすそ分けすることもちゃんと考慮して、たくさんの実をつけます。そして何十、何百という種を残し、最後には来るべき時をじっと待って、静かにゆっくりと土へと還っていきます。
なんて植物たちは慎ましく、強く逞しく、優しいのだろう。
せっせと汗を流し、土にまみれてたくさんの作物たちと過ごしていると、人間はその恵みをわけてもらい、やっと生きているだけなのだと感じます。植物のほうがずっと賢いことを、傲慢な私はこれまで気がつかずにいたんだと。
なんてちっぽけな自分。自然の流れに寄り添って、助け合って、奪い合うこともせず、強く優しく生きられたら。畑の真ん中でひとり、そう強く思ったりしています。
こんな風に、庄内での暮らしは私にたくさんのことを教えてくれています。
すべての始まりは、一冊の本との出逢い。前述した私の「意中の人」も、本書がきっかけで地元を見直し、二度と帰ることはないと思っていた故郷・庄内へ、十年ぶりに戻ってきました。そして今では人生のパートナーとして暮らしを共にしているのですから、これもまた感慨深いものがあります。
ところで、あの熱い生産者たちに逢う、という当初の大きな目的はどうなったかと言いますと――。
もちろん、本書に出てくるほとんど全ての方々に、お目にかかることができました。ある方はこちらから訪ねて、ある方は偶然に。
意外だった、と言うとちょっと語弊があるかもしれませんが、どの方も想像していたよりもずっと素朴で、親切で、笑顔の似合う、優しい方々でした(唯一、本書に何度も登場する山澤清さんを除いては。彼は想像していたよりずっとエネルギッシュで、広く深く、それでいてチャーミングな方でした)。
だけど少し話をしてみれば、胸にとても熱いものを秘めていて、頑として曲げない信念を持っていることが、すぐに伝わってきます。
こんな男たちがたくさんいる庄内は、やっぱりすごい。
そんな人々に惚れ、その姿を追い続けた本書の著者・一志治夫さん。私は貴方に一番共感し動かされてしまったのだと、気がついたのは庄内へ来てしばらく経ってからのことでした。
神様、私をここへ運んできてくれて、ありがとう。ここで次々と起こっていく奇跡をこの目で捉えていけたらと、未だ日々、胸躍らせています。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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