インタビューほか

『137億年の物語』著者が教える わが子を勉強好きにさせる方法

岡ノ谷 一夫 (東京大学教授)

『137億年の物語』(クリストファー・ロイド 著)

科学書でもなければ歴史書でもない分厚い本がベストセラーとなった。『137億年の物語』(小社刊)は、宇宙誕生から現在までの歴史を、文系と理系の双方の視点から考察した異色の作品だ。本書に込められた教育の本質とは? 著者のロイド氏に気鋭の脳科学者が聞いた。

登校拒否の娘にペンギンで全教科を教える

クリストファー・ロイド
1968年英国生まれ。ケンブリッジ大学卒業後、サンデータイムス紙の記者を経て、現在は教育専門出版社を経営。

ロイド 自宅の一部を教室に改造し、カリキュラムを買ってきて、時間割を組み、教科ごとに勉強させます。当初はこれでうまくいくように思えました。

 でも、3カ月もたったころ、また娘は勉強への興味を失ってしまったのです。

 そこで娘に「おまえはいったい何に興味があるの?」と聞いたところ、「ペンギンに興味がある」と言うのです。

岡ノ谷 ペンギン?(笑)

ロイド ペンギン(笑)。なんとも珍妙ですが、それにしか興味がないなら仕方がない。

 そこで私は、「ならば全ての教科を、ペンギンを使って教えてみよう」と考えたのです。

 たとえば、「なぜペンギンが極寒の中でも生きていけるのか?」という問いを立て、そこからペンギンの生態と生活環を教える(生物学)。次に、南極の風土と気候を教え(地理)、水がどのようにして氷になるのかを教える(化学)。

 さらに、氷山に衝突して沈没してしまったタイタニック号の物語を教える(歴史)。ペンギンを使って算数の問題をつくることもできるし、音楽の時間には「ペンギンの歌」を歌い、図画の時間にはペンギンの絵を描いたり衣装を作ったり……。

 そうしたところ、娘は全く退屈せず、生き生きと勉強するようになったのです。

岡ノ谷 それは面白い。娘さんのわがままを、うまく逆手に取りましたね。

 しかし本来、それが子供の正しい興味のあり方なのかもしれません。教科ごとに細切れに分割された知識を頭に詰め込み、それを答案用紙に吐き出すだけの教育なんて、何の感動もありませんから。

 ただ、いつまでもペンギンを教材に使っているわけにはいかないでしょう?

ロイド そこで次に、私はキャンピングカーを買い、娘を連れてヨーロッパ中を旅することにしました。歴史遺跡や自然風土を自分の目で見て実感し、科学、芸術、歴史、政治、経済などあらゆるジャンルの知識が有機的につながっていることを理解させようと思ったのです。

 旅は6カ月間にも及びましたが、結果として、娘は学ぶことへの好奇心を取り戻しました。現在は17歳になり、大学受験の準備をしています。

すべての知識はつながっている

岡ノ谷 それはよかった。本当の知識は「点」ではなく、他の分野とつながって「線」になり、さらに線がつながって「面」にならないと意味がないですからね。早いうちに本当の知識の素晴らしさに気づいたことは、娘さんにとっても幸せだったと思います。

 しかし、一般の人はそうはいかない。

ロイド 私も、知識の点と点をつないでくれるような教科書はないかと思ってずいぶん探したのですが、見当たりませんでした。とりわけ、「科学」と「歴史」をつなぐような作品は、1冊もなかった。

 科学者が書いた『地球の歴史』という本では、地球上に生命が発生し、人類が誕生したあたりで終わっている。一方、歴史学者が書いた『人類の歴史』という本だと、いきなりメソポタミア文明から始まっている。文系と理系の間には、かくも大きな溝があるのです。

 そこで、「ならば1冊で歴史も科学もわかるような教科書を、自分でつくってしまえ」と思い立ちました。それから2年がかりでまとめたのがこの作品です。

岡ノ谷 娘さんのおかげでこの作品ができたわけですから、登校拒否に感謝しなくてはなりませんね(笑)。

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137億年の物語

クリストファー・ロイド・著  野中香方子・訳

定価:3140円(税込) 発売日:2012年09月08日

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