インタビューほか

『137億年の物語』著者が教える わが子を勉強好きにさせる方法

岡ノ谷 一夫 (東京大学教授)

『137億年の物語』(クリストファー・ロイド 著)

科学書でもなければ歴史書でもない分厚い本がベストセラーとなった。『137億年の物語』(小社刊)は、宇宙誕生から現在までの歴史を、文系と理系の双方の視点から考察した異色の作品だ。本書に込められた教育の本質とは? 著者のロイド氏に気鋭の脳科学者が聞いた。

岡ノ谷 もちろん、動物には言葉は通じません。犬に「お手」と言ってお手をしたとしても、犬自身が「お手」と言うことはできませんから。

 しかし、そうした幼少期の体験から「なぜ人間だけが言葉を話すようになったんだろう?」という疑問をもつようになりました。

 また、その延長線上として、「なぜ自分は心を持っているんだろう?」「なぜ自分は自分なんだろう?」という問題意識を抱くようになりました。

ロイド ジュウシマツの歌から「文法」を発見されたのは、まさに必然的な流れだったわけですね。

岡ノ谷 現在は、ジュウシマツの研究から一歩進んで、「心はなぜ生まれたのか?」という大テーマに取り組んでいるところです。

 その手始めとして、「怒り」「喜び」「悲しみ」「驚き」といった人間の感情がどのようにして発生するのか、そして人間の感情がどのようにして顔の筋肉などに伝わり、表情としてあらわれてくるのかを研究しています。

ロイド それは素晴らしい。

 デカルトは「我思う、ゆえに我あり」と言いましたが、なぜ人間が「心」を持っているのかという問題は、永遠の謎とされてきました。この謎も解明される日が近いのでしょうか?

岡ノ谷 現時点では、「言葉」と「心」には密接な関係があることがわかってきています。そう遠くないうちに、重大な発見がなされるでしょう。

リーダーを育てない日本の教育

ロイド もうひとつ驚くのは、岡ノ谷さんの研究テーマが、まさに文系と理系の境界線上に横たわっていることです。心理学的な問題意識(文系)から出発しながらも、科学的なアプローチ(理系)で問題を解こうとしている。

 その結果、137億年間の未解決事件を解明する有力な仮説の提示に成功されたわけです。

 逆に言えば、文系と理系の両方の素養を持ち合わせておられるからこそ、こうした難問に立ち向かうことができたのではないか、と。

岡ノ谷 もし私がいわゆる勉強秀才で、細切れにされた知識を要領よく憶え、答案用紙に吐き出すことが出来ていたら、こうした研究はできなかったでしょう。その点では、下手に受験数学ができなくてよかったのかもしれない(笑)。

 そう考えると、専門分野を細分化し、スペシャリストばかり育ててきた日本の教育のありかたを根本から見直さなくてはならないですね。

ロイド 文系、理系などと教育を分けてしまう弊害のひとつとして、「ビジョナリー・リーダーが育たない」ということがあります。

 国民全体、あるいは人類全体が直面する難問に対し、幅広い視点から長期的に取り組めるリーダー……そうした人材が出てこなくなってしまうのです。

岡ノ谷 それは耳が痛い。日本の現状がまさにそうです。総理大臣が1年単位で交替し、経済は20年以上も低落しつづけています。

ロイド 私は一昨年の大震災と福島原発の事故に衝撃を受け、『137億年の物語』の結末を書き換えました。今回、福島県の被災地も訪問しています。

 しかし、願わくば日本がこれを再起のチャンスと捉え、再生可能なエネルギーに立脚した先端技術を開発し、世界をリードして欲しいと思っています。

 そして、長期的な視点を持ったリーダーが出てきてほしい。

岡ノ谷 そのためにはまず、教育から変えなければなりませんね。

137億年の物語

クリストファー・ロイド・著  野中香方子・訳

定価:3140円(税込) 発売日:2012年09月08日

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