田牧大和の小説は、すぐに続きが読みたくなる。
第二回小説現代長編新人賞を受賞したデビュー作『花合せ 濱次お役者双六』(講談社文庫)も、若き日の水野忠邦・遠山金四郎・鳥居耀蔵が大活躍するピカレスク『三悪人』(同)も、天才女性錠前師を主人公にした『緋色からくり 女錠前師 謎とき帖』(新潮文庫)も、そして男装の女性船頭の裏稼業を描いた『とんずら屋請負帖』(角川文庫)もそうだった。読み終わるやいなや「次! 次を早く!」と思ったものだ。それは私だけではなかったらしく、これら四作はのちにシリーズ化されている。
田牧大和は二〇〇七年のデビュー以来、捕物帳や職人もの、実在の人物を使った『酔(ゑ)ひもせず』(光文社)から架空世界が舞台のファンタジー『八万遠(やまと)』(新潮社)まで、実に精力的に、バラエティに富んだ作品を発表し続けている。しみじみしたりワクワクしたりと、読み心地もいろいろ。だが、結局ここに行き着く。
もっと読みたい。この先を読みたい。
読者にそう思わせる田牧作品とは、どんな小説なのか。そこにはふたつの要素がある。
ひとつは人物造形。読者が惚れ込み、感情移入できるだけの魅力がなければ、この人の活躍をもっと読みたいとは思わない。そしてもうひとつは舞台設定。主人公の職業や環境、人間関係に奥行きがあり、「これ、もっといろいろ話のネタがあるよね?」と期待させるような舞台であることが必要だ。田牧大和の小説に「次」を望むのは、どの作品でも人物造形と舞台設定という両輪がしっかりしているからに他ならない。
そして本書『甘いもんでもおひとつ 藍千堂菓子噺』もまた、そのふたつが見事に機能した作品である。読み終わったとき、あなたは必ずこう思うはずだ。「次を早く!」と。
舞台になるのは江戸の菓子司、藍千堂。気弱だけど優しい菓子職人の兄・晴太郎と、キレ者で商売を取り仕切る弟・幸次郎。そして二人の父の片腕だった茂市の三人でやっている小さな新興の上菓子屋だ。しかし規模は小さくても晴太郎と茂市の腕、幸次郎の知恵、そして江戸指折りの薬種問屋・伊勢屋の後ろ盾で、着実な商いを続けている。
晴太郎と幸次郎の父は、一代で菓子司「百瀬屋」を大きくした菓子職人だった。弟――晴太郎と幸次郎にとっての叔父清右衛門と一緒に、兄弟でやっていた店だ。ところが父が亡くなったあと、叔父は唐突に難癖をつけて晴太郎を店から追い出してしまった。しかも叔父は、百瀬屋の味の核だった父の砂糖「三盆白(さんぼんじろ)」を使うのをやめ、店の味まで変えてしまう。
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