どちらも一面では正しいアメリカ像だ。しかし、町山に「『民主主義は金で買える』という現実に気が滅入る」と言わしめた、映画プロデューサーだったロビイストのエピソードを知れば、能天気にアメリカを自由で、公平で、誠実でなどとは評せまい。このロビイストは、ルイジアナのアメリカ先住民にカジノを建てさせてやると30億円も詐取して有力政治家にヤミ献金し、さらにヤミ献金のマネーロンダリングまで行っていた。
30日間、マクドナルドだけを食べる実験映画『スーパーサイズ・ミー』のモーガン・スパーロックが、MTVで自身の番組をスタートさせたことに絡めて紹介されるアメリカ社会の現状にも驚かされる。「労働者と経営陣の年収格差は、レーガン就任時は1対40だったが、任期の頃は1対180へ開いた。現在、アメリカ国民の総収入の97パーセントを上位20パーセントの富裕層が独占している」。
さらに、マイケル・ムーアの『シッコ』を引きながら、医療保険制度の異常さを露(あらわ)にする。「年収200万円以下の貧困層が3800万人もいる」「アメリカの人口3億人のうちの6分の1にあたる約5000万人が医療保険に未加入で、年間8万人が何の医療も受けられずに死んでいく」。
実情に接すれば、大統領選におけるポイントは貧困とそれにともなう社会保障対策であるとわかる。毎日新聞は今年8月21日付けの朝刊で「貧困対策のためできることをすべきだ」「最大の関心は不法移民問題だが、どちらの候補も不満。前回も実は第3党の候補に投票した」という共和党支持者の声を紹介している。つまり、貧困や社会保障、移民政策の解決のためにとられる経済戦略(あるいは経済戦争)により、日本への対応も自ずと変わってくるわけで、親日派か対日強硬派かなどひとつのパフォーマンスでしかない。
町山が伝える生々しいアメリカの姿を見れば、アメリカの本当の恐ろしさがよくわかる。誰も積極的な悪意を持っているわけではなく、それぞれが考える正義、人とのつながり、家族のあり方に従っている。独創性の理解と伝播(でんぱ)のために形式化された植民地主義を採り、爆発する感情と謙虚さとを使い分ける。それが、生々しいアメリカの自由であり、アメリカの考えるグローバルスタンダードだ。
「星条旗は自らを焼き捨てる自由すら保障する!」と町山は書く。その自由は、良心と悪知恵とを併せ持つ生身の人間そのものの自由は、われわれ日本人にとっても必要な自由なのだろうか。それは本当に民主主義の成熟なのか。
あらためて考えさせられた。
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