一方で作家としてのわたしは、フレミングの原作と同じ冷戦の時代を舞台にした「時代小説」を書きたくはありませんでした。作中で描かれる脅威やストーリーが、読者の手に汗を握らせ、ハラハラさせなくてはいけない。過去を舞台にしたら、わたし流のプロットはうまく働かないと思ったんですね。だから『007 白紙委任状』では、アフガンやイラクでの戦争をはじめとする現代の紛争を描いたわけです。おかげで現代の読者の目に、物語が活き活きとしたものに映るようになったと思っています。
スリラー本来の楽しさを
――ボンドは世界中を飛び回りますが、いずれも「現在」の感覚がよく出ている土地という印象を得ました。
D 舞台を選ぶ条件が、物語を展開させる背景幕として役立つ紛争の火種がある、ということだったせいでしょうか。また、自分がすでに行ったことがあって、馴染みのある土地、というのも条件のひとつでした――これはすごく大事なことなんですよ。ドバイを選んだのは、ボンドを中東の国に連れていきたかったからです。イアン・フレミングは中東を描いたことがありませんでしたから。
――ジェームズ・ボンドの設定も非常に具体的ですね。これまでの映画では、舞台を現在に移していても、ボンドの背景については何となくごまかしていたように思います。
D 007の小説を読んだことのない世代の読者の目にボンドがリアルに映ることが大事だと思ったのです。ほとんどのひとは映画は観ていても小説版は読んでいないでしょう。だから物語や背景を現実的なものにしました。ボンドはアフガン帰りの元軍人で、年齢は31歳くらい。わたしは彼をアップデートしたわけですが、ボンドの人格については原作とほとんど変えていません。わたしのボンドはタバコを吸いませんが――現在、喫煙はスパイにとって褒められた技能ではないでしょう――かつてのようにマーティニを飲みますし、それ以外のボンドらしいあれこれもやります。
――映画や小説でおなじみの人物も登場します。秘密機関の長であるM、Mの秘書のミス・マニーペニー。直属の上司のビル・タナー、秘書のグッドナイト、スパイ道具を開発するQ課まで。これはボンド・ファンとしてうれしかったです。
D 8歳の頃からイアン・フレミングを読んでいたせいでしょうが、他の作家が生み出したキャラクターであっても、書くうえで苦労はありませんでしたよ。
――ちなみに過去の007映画や小説でいちばんのお気に入りは何でしょう。
D 小説も映画も『ロシアより愛をこめて』(註・小説の邦題は『ロシアから愛をこめて』創元推理文庫)ですね。理由はいくつかありますが、第1にプロットが非常に巧みに組まれていること。まず悪役の性格を掘り下げるところで幕を開けて、ボンドが登場するのは、なんと60ページほど進んでからなのです。
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