書評

巨匠が描く身近な恐怖とリアリティ

文: 千街晶之 (ミステリ評論家)

『ミスター・メルセデス 』(スティーヴン・キング 著 白石 朗 訳)

『ミスター・メルセデス』(スティーヴン・キング 著 白石 朗 訳)

 スティーヴン・キングといえば、誰もが知るアメリカのモダンホラー界の巨匠である。そんなキングが、デビュー四十年目にして初めてミステリを書いた……と話題になったのが、本書『ミスター・メルセデス』(原題Mr. Mercedes、二〇一四年。邦訳は二〇一六年に文藝春秋から刊行)だ。彼はこの作品で、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞(エドガー賞)最優秀長篇賞を初受賞した。

 ……と記すと、「キングがミステリを書いたのって本当に初めて?」という疑問が頭に浮かんだひともいるだろう(私もそのひとりだ)。過去のキングの作品で、超自然的な要素が絡まない犯罪小説といえば『ミザリー』(一九八七年)や『ドロレス・クレイボーン』(一九九三年)などがあったし、それらをミステリに分類しても何の問題もないのではとも思う。恐らく本書の場合、警察官(厳密には元警察官)を主人公とし、犯罪が最初に起き、その犯人を追及する構成の物語……といった意味合いで「初めてのミステリ」という表現が使われたものと思われる。ただし、本書はフーダニット(犯人探し)の体裁は取っておらず、犯人が何者かは早い時点で読者の前に明らかにされる構成だ。ともあれ、本書は日本のミステリ読者にも高く評価され、「ミステリが読みたい!2017年版」(《ミステリマガジン》二〇一七年一月号掲載)では海外部門二位、『このミステリーがすごい!2017年版』では海外部門三位を獲得している。



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