女の生きる欲を絵に
水谷 今回のドラマの中に「飾り物には飽きたのさ。生きている女が描きたくなったんだ」という台詞がありましたが、歌麿にとって興味があるのは、あくまで人なんだと思います。だから、単なる美人画ではなく、莫連(ばくれん)とか不作者(ふでかしもの)と言われる女性を描きはじめた。そこに人間の本性というか、生きる欲を見て、それを絵にしたくなったんでしょう。そういうところが、実に歌麿らしいですね。
中村 歌麿は、ある意味でバランスのとれない人間を描いていますよね。社会の枠組みからはみ出した女の絵もそうだし、廓にいる片翼の女たちの絵もそうですが、だからこそ、絵の中に、生きている女の姿を感じさせることができたのかもしれないと思うんです。
水谷 絵を描き終えてしまうと、歌麿はその女を冷たく突き放す。これは別に計算してやっていることではなく、全部絵のためなんですね。歌麿に描かれた女は、歌麿に魂を奪われてしまうんですけれど、同時に歌麿だって魂を絵の中の女に吸い取られている。絵を描き終わったら、おそらく抜け殻のようになってしまっているはずです。
ドラマの中にも夫がありながら、絵のモデルとなったことで、歌麿に恋焦がれてしまうお妙という女性が登場します。彼女が事件に巻き込まれてしまうんですが、その後の歌麿のふるまいによって、人間の真実みたいなものがどんどん炙り出されていくんです。
中村 ラストには、今回は歌麿自身が剣を使っての大立ち回りもあります。種明かしになってしまうので、詳細は言えませんが、あそこも歌麿の人間性をよく現していますよね。
水谷 あのシーンは、『ダイ・ハード』もびっくりでしょう(笑)。恋愛あり、アクションあり、この時代の社会背景あり、しかも仙波と歌麿の友情まで描かれているんですから、自画自賛ですが、よくできたドラマです。
中村 仙波という人間は、実在した歌麿や蔦屋とちがって、原作者の高橋克彦先生が創作した人物ですが、歌麿のことが好きなんでしょうね。同心ですから、お上側の人間ではあるんですが、人間味があって、権力者の松平定信に対して、非常に腹を立てている。改革を口にしながら、最終的には町人を下に見た、定信の自己満足しかないことに気づいているんです。
水谷 そこが歌麿、仙波、蔦屋の三人がひとつになれるところなんですね。あとは、それぞれ三者三様バラバラですけれど(笑)。
中村 三人のトライアングルだからこそ、前に進んでいけるというのがありますね。
かげゑ歌麿
発売日:2016年04月22日
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