インタビューほか

水谷豊ら役者たちが熱く語る、勧善懲悪に収まらない高橋克彦版・歌麿の魅力

『かげゑ歌麿』 (高橋克彦 著)

本稿は、本書収録の「さやゑ歌麿」を原作とするドラマ「だましゑ歌麿II」(二〇一二年九月十五日・テレビ朝日系)の放送を前に、歌麿役の水谷豊さん、蔦屋役の岸部一徳さん、仙波役の中村橋之助さんに、撮影時のエピソードと“高橋克彦版・歌麿”の魅力について語り合っていただいたものです。

名プロデュースの秘訣

水谷 そもそも、蔦屋さんという版元でなかったら、歌麿はお上に睨まれるような絵を、とても、世に出すことはできなかったでしょう。

岸部 蔦屋重三郎は大変な人物ですよね。いまの世の中で考えたら、才能を見つける能力のある、或いは大衆というものをよく知るプロデューサーであり、人を使う能力がある、優れた企業人でもあるんです。

中村 岸部さんがおっしゃったように、蔦屋さんが、稀代のプロデューサーだったことはまちがいありません。とりわけすごいのは、人をどうしたら驚かすことができるかを常に考えていたところだと思いますね。僕自身が役者をやっていても感じていますけれど、世の中に何かを訴えようと思ったときに、普通のことだけをやっていても、誰も驚いてはくれません。何かとてつもないことをやってこそ、人を驚かせることができるんです。蔦屋さんはそれを楽しんでやっていた気がします。

岸部 いまの時代は、大衆の対極にある権力の壁というものが、意外に見えにくい時代ですよね。でも、この時代はそれがはっきり見えていて、大衆の側が何を求めているのか、何に正義を置いているのかということを、蔦屋重三郎はよく知っていたんじゃないかと思います。それを商売の基本にしていたから、蔦屋の出すものは、江戸の人々の心をがっちり掴むことができた。

中村 きっと長屋に住む人の困窮だったり、ささやかな幸せというのも、蔦屋さんはよく知っていたんでしょうね。だから、庶民を敵に廻すことも、絶対になかった。ふつう、あれだけ儲かって一代で財を築き、有名人になったとしたら、プライドだって高くなるだろうし、庶民の反感を買うわけです。その分、お上の覚えがめでたくなるのが通常なんだけれど、蔦屋さんの場合、それがまるで逆でした。

水谷 そうですね、江戸の庶民には感謝されているんです。

中村 それでお上には嫌われているわけでしょう。今回の話の設定も、寛政の改革で蔦屋が不当な摘発を受けた直後になっていますが、それも実際にあった出来事です。いかに蔦屋の影響力を、お上が気にしていたか分かります。

水谷 やはりギリギリのところで生きている人は、歌麿もそうなんですけれど、面白いですよね。

 それから、ふたりとも人を非常によく観察している。強大な権力、怖い権力――つまり、庶民にとっては敵ともいえる、松平定信という権力に対して立ち向かっていくわけですけれど、その思想は別に難しく考えなくてもいいと思うんです。人としてどうあったらいいのか、どう生きたらいいのかということを、彼らは常に考えていて、その結論に基づいて、自然に行動していった結果だったんじゃないでしょうか。

岸部 現代にも蔦屋のような人間がいたらおもしろいんですけれどね。

中村 歌舞伎の演目に、井上ひさし先生の『手鎖心中』を原作とした、「浮かれ心中」というのがあります。その主人公の若旦那もお上にわざと楯突いて、手鎖の刑になるんです。これは皮肉なお話なんですけれど、普通にやっているよりも、ちょっと危ない路線にいくほうが、エキサイティングで、周囲は盛り上がるというのはあるような気がします。蔦屋さんにしても歌麿にしても、やっぱりちょっと変というのも失礼ですが、どこか紙一重なところがある。

水谷 だからこそ、歌麿からしますと、仙波がいてくれて助かりますね。仙波がいなかったら出来ないことが多いというか、とっくに身の破滅です。『相棒』のときには、右京さんに官房室長がついてくれていたんですけれど、それと同じようなことを仙波に感じていましてね。僕はいつもついているなあ、と……これ、冗談ですよ(笑)。

 また、今回はのちに北斎となる春朗が、仙波と共にいろいろと活躍します。推理という意味では、歌麿以上に春朗が働いてくれて、これもまた僕としては、おもしろいと感じるところです。

中村 そのほかの登場人物たち、たとえば葵小僧や、女形役者の蘭陽の生き方も、それぞれに奥深いですね。

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かげゑ歌麿
高橋克彦・著

定価:本体690円+税 発売日:2016年03月10日

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