- 2015.11.11
- インタビュー・対談
めっちゃおもろいやつがおる! 出口治明×仲野徹 歴史に残るリーダーたちの物語(後編)
「本の話」編集部
『世界史の10人』 (出口治明 著)
ジャンル :
#ノンフィクション
偶然の重要性を知る
出口 僕がライフネット生命をスタートさせたのは、60歳のときです。ベンチャーは新しい海へと船をこぎ出すようなものですから、何かと大変でした。でも、過去のリーダーに学んだヒントが、けっこう役に立っているのです。ひとつには、歴史を勉強していると、いかに偶然の要素が大きく働いているかというのが、よくわかるからです。それに気づけば、人間は自分の身の丈を知ることができると思うのです。
仲野 そうそう、僕が学生にいつも言って、周りからいやがられることのもう一つは、「努力が報われる世界ほど、つまらないものはない」(笑)。
出口 逆にいえば、努力が報われる社会ほど、しんどくなります。一切、言い訳ができないわけですから。身の丈を知っていれば、うまくいかなかったときにも、自分のせいにして辛くなるのではなく、風が吹いた時にもう一度、頑張ってみようと思える。
だけど、偶然や運というのは、神さまがプレゼントしてくれるものじゃなくて、適当な場所に、適当なときにいるということだと思うのです。ダーウィンの進化論じゃありませんが、運と適応が根本。
仲野 運も結果論ですね。そのときはわからない。あとからみて、あれは運やったんかなぁと。
出口 だからたぶん、運に頼りすぎている人は、適応できない(笑)。
僕は、「棚から牡丹餅説」と言っていますが、棚から牡丹餅が落ちてきたとき、その近くにいることが運。でも、それだけじゃ牡丹餅を食べることはできなくて、棚から牡丹餅が落ちるときに、走っていって下で大きな口をあけることが適応だと(笑)。
仲野 むちゃくちゃ、わかりやすいです(笑)。
出口 そうであれば、人間にできることは、毎日何が起きるかわからないから、朝起きたときから元気にして、ちゃんとご飯を食べて、勉強もして、準備を整えておくことです。二日酔いでヨレヨレになっていたら、きれいな女性に出会ったとき、声もかけられない(笑)。だから、適応するにも準備が必要だと。
仲野 それは、生存するうえでも、非常に大切です(笑)。
出口 古代シュメールがご専門で、上智大学特任教授の月本昭男先生から聞いた話によると、メソポタミアには、これまで発掘されたものの10倍以上の粘土板が、地中にまだ埋まっているそうです。
仲野 いま、ISが縄張りを広げていたり、シリア内戦が起きている地域ですね。
出口 平和になって、また発掘調査が行われれば、みんながびっくりするようなことがわかるかもしれません。科学と同じように、歴史も日々新しくなる。それでも、人間の脳みそは1万3000年前から進化していないそうですね。だとすれば、人間の悩みも、嫉妬や陰謀、権力欲、大きな集団をどう率いるかに至るまで、古今東西のリーダーが経験してきたことと、現在でもそう変わりはないでしょう。第一、教材は過去にしかありません。
たくさんケースを知っているほど、判断力が正確になる。いろいろなケースを知っているということは、結局、いろいろな目でものごとが見られるということですから。
仲野 ある種のシミュレーションを行うことになるということですね。
出口 アホな人間がいる限り、歴史はアホな人間によってつくられていく。だから、歴史は面白い。生きたケーススタディである歴史を勉強していると、そんなふうに楽観的になれるんじゃないでしょうか。
仲野 むかしむかし、ナポレオン3世というおもろい皇帝がいました、などなど、歴史エピソードをふんだんに学べる――そして、こんなおもろい出口さんの教養に触れることができる。絶対に、読んで損はない一冊です。教科書みたいに一生懸命読む必要はありません、念のため(笑)。