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めっちゃおもろいやつがおる! 出口治明×仲野徹 歴史に残るリーダーたちの物語(後編)

めっちゃおもろいやつがおる! 出口治明×仲野徹 歴史に残るリーダーたちの物語(後編)

「本の話」編集部

『世界史の10人』 (出口治明 著)


ジャンル : #ノンフィクション

教養とは何か

フェデリーコ2世

仲野 そうやって考えると、教養って大事ですね。

 フェデリーコ2世は、しぶしぶ十字軍に参加しますが、イスラム側と交渉して、10年間という期限つきながらも、エルサレムに奇跡的な平和をもたらします。そのときに重要な役割を果たしたのが、お互いが交わした書簡だったと、書かれていました。フェデリーコはアラビア語を解し、イスラム世界に対する理解が深かった。交渉相手のアル・カーミルは、すっかり感激してしまうんですね。

出口 人が人を好きになるとき、いちばん大きな要素は相性だと思います。では、相性とは何かといえば、「おもろい」ということではないでしょうか。お互いに、「おもろい奴だな」と思えば、パートナーでも長続きする。「おもろい」とは、ひとつには、引き出しが多いことだといえます。

 たとえば、清少納言の『枕草子』に、「香炉峰(こうろほう)の雪」というのがありますね。

仲野 平安時代の女房たちが、中宮定子を囲んでなごやかに閑談しているときのお話ですね。外では雪が降っている気配がするのに、御簾(みす)が下がっている。そこで中宮定子が、「香炉峰の雪はいかならむ」と、問いかける。そしたら、清少納言が御簾をクルクルと上げてみせた。

 これは、白居易の『白氏文集』に、「遺愛寺(いあいじ)の鐘は枕をそばだてて聴き、香炉峰の雪は簾をかかげてこれを看る」という有名な詩があるからで、それを知らなければ、「ちょっと少納言さん、何やってんのや」と(笑)。

出口治明

出口 このように、人間の会話って、お互いが共有していることをベースにして成り立っているところがあると思うのです。コミュニケーションは、お互いの共通の部分が多ければ多いほど、円滑に進んでいく。

 教養の定義は難しいのですが、ひとつには、こうした共通の知識とか経験だと、いえるんじゃないでしょうか。

仲野 ある意味で同郷出身とか同じ学校出身同士というのと、似ていますね。でも、もっとゼネラルに身に着けうるものとして、教養がある。

出口 そうですね。僕は三重県出身ですから、相手が三重県人というだけで、「ええヤツやな」と(笑)。でも、世界中の人と同郷にはなれませんから(笑)、お互いに知っている歴史が共通基盤になったりします。たとえばウズベキスタンに行って、英雄ティムールの話をしたら、とても喜ばれました。そういうところから話が進んでいく。

仲野 なるほど、イメージがわきますね。同郷や同窓は、イデオロギーなんかとは関係がないから、少し無理な話でも、「ここはちょっと融通きかせてやろう」とか、なんとなくうまくまとまることがありますからね。

出口 ええ。でも、教養の場合は、たとえば歴史じゃなくても、音楽や絵画など、お互いに共通するものであれば、何でもいいんです。ただし、そうしたことをたくさん知っているほうが、有利というか、話をしていて楽しい。楽しければ相手を好きになるだろうし、結果的にコミュニケーションがうまくいくと思います。

【次ページ】偶然の重要性を知る

世界史の10人
出口治明・著

定価:本体1,400円+税 発売日:2015年10月31日

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