「国家にとって重要なのは、知や文化の質ではなく、実用的な情報や技術の量」であるという発想が、まさに現在、文科省や経済界が進めようとする大学改革の前提となっている。一見、近代的に見えるが、これは、中世の職人教育と親和的だ。狭い分野での最先端知識をつけた専門家をいくら養成しても、そのような専門家はすぐに役に立たなくなる。池上氏が呼ぶ教養は、シュライエルマハーが諸学を包括し、統合するところの哲学と同じ機能を果たす。このような教養は、歴史の中で生み出されていくのである。
本書の『大世界史』というタイトルには二つの意味がある。第一は、世界史と日本史を融合した大世界史ということだ。日本の視座から世界を見、また世界各地の視座から日本を見、さらに歴史全体を鳥瞰することにつとめた。第二は、歴史だけでなく、哲学、思想、文化、政治、軍事、科学技術、宗教などを含めた体系知、包括知としての大世界史ということだ。
人間には、愚かさと聡明さ、残忍性と優しさが混在している。歴史から学ばなくてはならないのは、ちょっとした行き違いで、大惨事が発生するということだ。逆に言うならば、ちょっとした気配りと努力で、われわれは危機から脱出することもできるのである。大世界史から謙虚に、人類が生き残る術について、読者とともに学んでいきたい。
二〇一五年九月一四日
(「おわりに」より)
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