日本人は議論が下手だと言われます。しかしグローバル化が進み、中国や韓国の反日も勢いを増す中、議論下手では日本人は生きていけません。「柔よく剛を制す」議論の達人、櫻井よしこさんに、議論上手になれる秘訣を教えていただきました。
――おりしも朝日新聞が慰安婦問題での誤報を20年以上も経って訂正しましたが、この間、日本政府は中国や韓国からの攻撃に何ら有効な反論ができませんでした。歴史認識問題にとどまらず、日本人は議論下手のために国際社会でずいぶん損をしているように思います。
日本にとって世紀の屈辱ともいえる事態を長らく放置してしまった最大の原因は、この間、国内での議論が非常に貧しいものだったからです。政府や知識人、メディアは、信頼できるデータをもとにして入念に議論を積み重ねる努力を怠り、論争を忌避し、中韓や朝日の垂れ流す情報に踊らされてきました。また、誤報であることは比較的早い時期からわかっていたにもかかわらず、積極的に情報を発信して訂正することもしなかった。
日本の敗北の原因は、まさに議論の貧困にあるのです。国内では「沈黙は金なり」と言うように、主張をしないことが美徳とされる風潮があります。しかし国際社会では、沈黙は自動的に敗北、もしくは死を意味するのです。
――櫻井さんの議論の場に立ち会っていて驚かされるのは、「どんな権力者にもはっきり物事を主張するけれど、けっして相手を不快にさせない」ということです。論難にも柔らかく応じ、論敵を納得させ、いつの間にか自分の領域に引きずり込んでしまう。こうした技術はどこで体得されたのですか?
まさに実践を通じてです。私が大学卒業後に就職したのは、「クリスチャン・サイエンス・モニター」というアメリカの新聞社の東京支局の助手でした。その後、ニュース番組でキャスターの仕事に就き、多くの人々にインタビューする機会がありました。
それらの現場で直面したのは、文化的な背景や価値観を異にする人たちを相手に、どうすれば建設的なコミュニケーションを積み重ねられるのか、という課題です。
議論は、「勝てばよい」というものでもありません。議論の目的は、より有益な結論を導くことです。喧嘩腰で自分の意見を主張するだけなら誰にでもできます。しかし大切なのは、相手を否定することではなく、相手の本音や意見をどう引き出すかです。そのうえで、考え方や立場の異なる人々に、こちら側の考え方や視点を受け入れても良いという気持ちにさせることです。
私はずいぶん悩みながらも、先輩たちの仕事ぶりを見て、試行錯誤を繰り返しながら、自分のスタイルを作り上げてきました。