2017.11.09 書評

〈英雄たち〉の帰還

文: 佐々木 敦 (批評家)

『キャプテンサンダーボルト』(阿部和重 伊坂幸太郎 著)

『キャプテンサンダーボルト』(阿部和重 伊坂幸太郎 著)

 本作『キャプテンサンダーボルト』は、二〇一四年十一月に発表された、阿部和重と伊坂幸太郎による完全合作小説である。単行本の刊行から約三年を経ての初の文庫化であり、あとで述べるように幾つかのアップデートが施された「完全版」と言ってよいものになっている。

 現代日本文学のトップランナーである阿部和重と、当代きっての人気作家である伊坂幸太郎がタッグを組むというのは、小説界における一大事件と呼ぶべきことだった。私自身、最初に知った時には俄には信じられない気がしたものである。そもそもプロジェクトが明らかになるまで、この二人の間に目立った接点は存在していなかった。しかし実は伊坂は阿部の長年の愛読者であり、阿部もまた伊坂の才能にはかねてより一目も二目も置いていた。やがて二人は出会い、意気投合し、極秘計画が始動した。十分な時間を掛けて秘密裡に執筆が行なわれ、そして『キャプテンサンダーボルト』が爆誕(!)したのだった。

 もっと驚いたのは、先に「完全合作」と述べておいたように、この作品が二人の分担を明記することのない、徹底した共同作業で書かれていることだ。どこが阿部で、どこが伊坂なのか、もちろん推理推測はあれこれ可能だが、なにしろ読者を操ることにかけては他の作家の追随を許さない二人のこと、こちらの憶測に対してさあどうでしょうと微笑みながら裏で舌を出しているさまが透かし見えるような気がしたものである。実際、本作は二人が原稿を何度となくやりとりするプロセスを経て完成されており、すべてのパートに何らかのかたちで両人の手が入っているらしい。つまり「阿部+伊坂」というより「阿部×伊坂」なのである。

 さて、では『キャプテンサンダーボルト』とは、いかなる小説なのか。『シンセミア』『ピストルズ』『Orga(ni)sm』と書き継がれている阿部和重のライフワーク「神町サーガ」の神町は山形県にある実在の町、伊坂幸太郎のほぼすべての小説の舞台は作家自身が住む宮城県仙台、とすると「合作」である以上、その中間に位置する蔵王がクローズアップされることになる。蔵王連峰に御釜と呼ばれる火口湖がある。別名五色沼。物語の隠された中心がここに置かれる。続いて主人公が設定される。作者が二人であるからには、ヒーローも二人がいいだろう。お調子者の行動派で、ノリの軽さのせいで他人に信頼されにくいが、実は義理人情に篤い良い奴である相葉時之と、その旧友で、落ち着いた物腰の陰に諦念と焦燥を隠した井ノ原悠。二人はかつて純朴な野球少年だったが、大人になった今では人生という試合での負けを意識せざるを得ないでいる。そんな二人が、偶然の玉突きによって或る陰謀に巻き込まれ、一発逆転を企図したことから、物語は颯爽と走り始める。



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