前回までのあらすじ
高校二年生の山崎美緒は、いじめが原因で学校に行けなくなっていた。岩手で工房を営む祖父母が美緒に贈ってくれた赤いショールにくるまっているときだけ、心が安らぐのだった。だがある日、美緒の部屋からショールが消えていたことで、母と口論になる。思いつめた美緒は、衝動的に岩手の祖父の家に逃げ込む。祖父や親戚の裕子の仕事ぶりを見るうち、美緒は自分でもホームスパンを作りたいと思い、裕子に入門することになる。徐々に工房にもなれ、元気を取り戻していく美緒だが、そんなある日、突然祖父の元にやって来た母親の真紀と激しく衝突。しばらくして、祖父と共に美緒は東京に行くことになるが、母とは仲違いしたままで、気まずい思いを抱えて実家に向かうが・・・・・・。
祖父に伴われて東京の家に帰ると、父と母が待っていた。
お茶を飲みながら、祖父は三十分ほど紅葉や気温などの世間話をしたあと、ホテルに戻った。東京の友人とこれから飲むのだと言う。しかし、父の提案で、翌日の日曜日に夕食を一緒に取ることになった。
祖父が去ったあと、母が冬服の支度をしてあると言った。部屋に入ると、段ボール箱がベッドの前に置かれている。なかには真新しい、保温性があるインナーと、雪道でも滑りにくいという防水性のショートブーツが入っていた。
日曜日の夕食のため、父は中華料理の店の予約をしていた。ところがその日の午後、デパートで買った高そうな牛肉を持って、祖母が家に来た。
岩手の祖父に会うのは、美緒の初宮参り以来なので挨拶をしたいのだという。そして、もしよかったら、今晩はみんなですき焼きパーティをしないかと提案した。
父は店を予約していることを伝え、一緒に行かないかと誘ったが、祖母は譲らない。こういうときは外で食べるより、家で食事をした方が楽しいものだと言う。岩手の祖父もきっと賛成するから、一度聞いてみたほうがいいと祖母は父に熱心にすすめた。
仕方なく、父は祖父に電話で事情を説明した。外食を選ぶかと思ったが、祖父はこの家でのすき焼きを選んだようだ。電話を終えた父は意外そうな顔で、祖母にそう伝えた。
ほらね、と祖母が得意気に笑う。
「聞いてよかったじゃない、広志さん。騒がしいお店より、一家水入らず。家で食べるのが何よりのごちそうよ」
母がため息をもらし、軽く首を横に振る。
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