インタビューほか

岸惠子×磯田道史対談 日本とパリの「愛のかたち」(後編)

オール讀物2018年1月号より

『愛のかたち』(岸 惠子 著)

ド・ゴールと山尾志桜里

磯田 岸さんは、人の見方も的確ですよ。以前、電話で話しているとき納得したのはド・ゴール評。革命のド・ゴールは素敵だったけれど、政治家になってからはダメだったと。

 教養もあったし、名門出身ではあったし、一言でいえば大衆性がなかった。軍人としては立派に祖国をナチスから救ったのに、政治家としては時代にそぐわない旧体制を貫き過ぎたと思うんです。

磯田 ちなみにド・ゴールは、岸さんが妊娠しているときに握手したんですよね。そのとき、ド・ゴールもお腹が出ているから、腹と腹がぶつかっちゃうかもしれないと思った、というのも……。

 本当に、二人でお腹が出ていて、しかもすごく長身な方なのでやっと手が届きました(笑)。私、出産の九日前だったんです。心配したイヴォンヌ夫人と、ド・ゴール付の看護婦が近くにいてくれて。

磯田 これだけ幅広い経験をしてきた岸さんは、今の日本社会については、どう思っていらっしゃるんですか。

 相変わらず幼稚だと思いますよ。成熟していない。終戦直後、東京にマッカーサー記念館を作る話が持ち上がっていたにもかかわらず、マッカーサーが「ドイツ人は僕らと同じ成熟した人間だが、日本人は純粋な十二歳くらいの少年だ」という趣旨の発言をしたのに怒って、取りやめになったことがありました。私は、この一件がいかにも日本人らしいと思います。当時のまま、成熟していないと思いますよ。

磯田 情緒に任せて流されてしまう。本来ならマッカーサーは、戦後日本の前提条件を作った人ですから、徹底研究しなくてはいけない。マッカーサーを克服するにせよ、事実がわからなければ始まりませんから。僕が歴史の中で見たのは、勝つ組織は自分にとって気分の悪い、面白くないものを掘り下げて考えるリアリズムを持っているということです。

 リアリズムの欠如という面で言えば、ついこないだ不倫問題で会見し、涙を流して「申し訳ございません」って謝った女性議員がいましたけど、別にあんなことマスコミがこぞって問題にすることはないと思います。

磯田 山尾志桜里さんですね。

 この秋の選挙で再選して私は拍手したんですけど、女性たちは「恥知らず」って言うのね。でも、何があろうがなかろうが関係なく、政治家としての能力があればいいんですよ。

磯田 僕、こういう性格なので、あの事件を善悪ではなく、事実かどうなのか、どういうシチュエーションで起きたのかを知りたくなってしまって……この前、品川で時間があったので、山尾さんが泊ったと報じられたホテルまで行って、部屋の場所を確かめてきました。これを「実事求是」というんですが、やっぱり現場を見ないと(笑)。まあ、山尾さんも、一人で泊ったと言わざるを得なかったのでしょうけどね。

 それは何もなかったわけがないじゃないですか(笑)。

磯田 防犯カメラで証明できるのか、できないかも含めて見てきました。「いま行かないと、平成の目撃者じゃないよな」と自分を奮い立たせて(笑)。

 山尾さんの話もそうなんですが、人間は時間や空間の軛をはめてはいけないと思うんですよ。時間と空間で「これとこれをこうすべき」っていう軛の中で暮らしているけど、それに捕らわれ過ぎて人間が不幸になったり、本来できることをあきらめてしまう場合が多い。でも、岸さんの人生も、『愛のかたち』の登場人物たちも、そうでない生き方のモデルになっている。

 それは嬉しいですね。

磯田 岸さんは今の時代の最先端。なぜなら、これからは新たな発想を生むことが、求められる時代になるからです。

 工業化社会では、鉄鉱石や石炭など遠いところに離れているものを結合させて、鉄のような人間の富や価値が生まれ、経済が回る。労働時間を二倍に延ばせば生産も二倍になるわけです。

 一方、いまはサービス業がGDPの七割を超える。新しいアイディアを生み出せるかが勝敗を分ける。もちろん何もないところから思いつく天才もいるけど大抵は空間的、時間的に遠いところで出会ったものを、今のものとぶつけて発想が生まれる。岸さんの生き方は、これからの未来の日本人のモデル。だから岸さんを「往年の大女優」と呼ぶのは大間違い。

 私も大嫌いです、そういう呼ばれ方。生きたままミイラにされているようで(笑)。

磯田 むしろ「未来人」なんです。今日もお話を伺って、百年後の日本に限らず世界中の人々が経験するようなことを、タイムマシンに乗って経験しちゃった人なのだと思いました。

オール讀物2018年1月号

2018年1月号 / 12月22日発売 / 定価980円(本体907円)
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