中野京子さんと読み解く名画の謎シリーズ、本書はその第三弾〈陰謀の歴史篇〉です。シリーズ中もっともミステリー色の強い巻なので、中野さんのご本の大ファンである私に解説のお鉢が回って参りました――と自慢したいところなのですが、ページを繰っていただけば一目瞭然、本書にはくだくだしい解説など必要ありません。次から次へと登場する西洋絵画の名品に見惚れつつ、その背景を物語性豊かに読み解いてゆく文章を堪能すればそれでよし。代表作『怖い絵』シリーズをはじめ、中野さんのご本は全て、それまで西洋絵画にまったく興味がない人が手に取っても面白く、一冊読了すると、名画鑑賞を通して神話や世界史・美術史について生き生きとした知識と教養を得ることができるように作られているのですから。
というわけで、以下の拙文は解説ではなく、一人の中野京子ファンのおしゃべりという感じでお読みいただけると嬉しいです。で、ファンがまず語りたいことと言ったら、やっぱり「どこがそんなに好きなの?」ですよね。
私が最初に出会った中野さんのご本は、『怖い絵』の単行本第一巻です。書店の新刊平台で見かけて、次の瞬間には一冊手にしてレジに向かっていました。もともと西洋絵画の画集を見るのは好きだったのですが、画集ってだいたいが大きくて重たいところが辛い。なのに『怖い絵』は軽いソフトカバーに美麗なカラー印刷で、中身はたっぷりと読み応えがあって、一発で魅了されてしまいました。
私がそれまで出会ってきた画集や美術史の本では、数多の画家や名画は全て教科書的なくくりで分類・解説されていました。地域と時代ごとに区分され、「印象派」「フランドル派」などの作風で分類され、時系列で並べられていたわけです。でも『怖い絵』は違った。「怖い」というコンセプトのみで名画のアンソロジーが作られていました。
本書のシリーズも同じです。「謎」というコンセプトで、全四巻の特設展を構成している。これってコロンブスの卵ですよね。中野さんが登場するまで、名画を解説するプロの美術家や学者さんたちも、それを受け止める私たち読者も、教科書的な分類が当たり前で、西洋絵画を「ちゃんと鑑賞する」にはそれしかないと思っていた。お勉強的に向き合うのが正しいと思っていた。中野さんはマジシャンのように軽やかな手つきで、その思い込みを翻してしまいました。
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