書評

フランス革命も、アメリカ独立も――歴史はいつも会計士が作ってきた!

文: 山田真哉 (公認会計士・税理士)

『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 著)

『帳簿の世界史』(ジェイコブ・ソール 著)

 最後に、ちょっと余談を。本書で描かれている「帳簿の歴史」には、まだ続きがあります。つまり、「帳簿の未来」です。それに関して、いま会計業界でもっともホットなテーマになっているのが仮想通貨です。

 仮想通貨は、ブロックチェーンという技術によって成り立っています。本稿で詳述するには紙幅が足りませんが、会計士目線でざっくり説明すると、仮想通貨とは、ブロックチェーンによって「帳簿が乗っかっている貨幣」なのです。

 これまでは、貨幣と帳簿は物理的に別々のものでした。そのために人々は記帳や簿記の技術をもって貨幣を管理してきました。しかし別々であるが故に、帳簿の方を改竄してしまえば、実際の有高とは異なっていても不正ができてしまいました。ところがブロックチェーンによって成立している仮想通貨は、いうなれば通貨=帳簿であり、これができないのです。

 仮想通貨は帳簿と結びついており、手元にある仮想通貨がこれまでどういうやり取りを経て自分の元に入ってきたのか、という経緯がすべて記入されています。そして、この帳簿は公開されており、全世界の人によって管理・監視されています。もし帳簿を書き換えよう(改竄しよう)と思ったら、仮想通貨のネットワークに繋がっている世界中のコンピュータを同時にハッキングし、瞬時に書き換える必要があるのですが、そうした能力を持つコンピュータは理論上存在しません。それゆえ、仮想通貨の改竄は事実上不可能と言われているのです。

 二〇一八年一月には、コインチェック社の仮想通貨不正流出事件がありました。しかしこの事件でも、流出した仮想通貨の行方は、公開されている帳簿にすべて記録され続けており、その流れを追うことができています。そのため、犯人は奪い取った仮想通貨を簡単には使うことができません(それをドルやユーロなど、現実の通貨に換金しようとすればすぐに特定されてしまいます)。

 仮想通貨は、帳簿の数字を書き換えたり、隠したりすることが極めて難しいお金です。これは、不正と戦い続けてきた「帳簿の歴史」にとっては、大きな転換点だと言えるでしょう。先人たちが作り上げてきた「帳簿の歴史」は、遂に「帳簿=貨幣」となったことで、新たな時代を迎えようとしているのです。

帳簿の世界史ジェイコブ・ソール 村井章子訳

定価:本体880円+税発売日:2018年04月10日


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