Fくんは思索的な目鼻の細面の左右に怒った顔、悲しい顔を持ち、腕は六本ありました(いくぶんか誇張しています)。
Fくんは、とても物知りでした。
三十九歳になった今も私は「伝染るんです。」「王立宇宙軍 オネアミスの翼」「BARBEE BOYS」などが好きなのですが、これらは当時のFくんが「これ面白いよ」と三面の顔を自在に入れ替えながら話し、また六本の腕で代わる代わる示してくれたものです。
T字路の向こうはたいそう煌びやかで豊かで、涯を越えていくだけの価値はある。
私にとって新鮮な驚きでした。その後もやっぱり毎朝、T字路に一度は立ち竦むのですが、以前よりは逡巡する時間が短くなった気がします。
時が経ち高校のころに私は、Fくんが始めたバンド「阿修羅道」(仮名です。ほんとの名前は失念してしまいました)にベースで参加して、バンド活動を始めます。以来二十年くらいバンド活動を続けながら、私はエレキベースを杖にして途中下車と道草をただ重ねてきました。
T字路のようなものにも何度か出くわしましたが、その度に乾闥婆くん、迦楼羅っち、軍荼利明王さん、鬼子母神ちゃん、和修吉やん、妻の毘沙門天(全て仮名)、その他数え切れないほどたくさんの友人や恩人に支えられ助けられ、何とかやってこれました。「生きるとは出会いの積み重ねであるなあ」と、エレキベースを眺めながらつくづく思います。
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