デビュー2作目の『熱源』が「最も面白い作品」と謳う山田風太郎賞候補にノミネート。同時代の作家、全国の書店員からも熱いエールが寄せられる、注目の作家・川越宗一の素顔と本音に迫ります。
自分が面白い、読みたいと思った小説を書く
━━今回の『熱源』は樺太(サハリン)を舞台に、明治期から終戦にいたるまでの激動の時代を描いた壮大な物語です。その発想はいったいどこから生まれたのでしょう?
川越 2015年に妻との旅行で北海道を訪れた時、白老(しらおい)のアイヌ民族博物館でブロニスワフ・ピウスツキの胸像を見たことがきっかけです。彼はポーランド人で政治犯としてサハリンに送られたのですが、その後、現地で民族学研究を行い、白瀬矗率いる南極大陸探検にも参加したアイヌの山辺安之助らとも親交があった。興味をもって調べてみると、知れば知るほどピウスツキと安之助はすごい人物で、非常に感動を覚えました。この二人をテーマにした小説を僕自身が読みたいと思ったし、スケールの大きな小説になるだろう、と。
━━川越さんはデビュー作『天地に燦たり』でも、島津、朝鮮、琉球と国も立場も異なる三者の在り様を儒教を軸に描かれました。常に大きいテーマで歴史小説に挑んでいるように感じられます。
川越 『天地に燦たり』も同じように沖縄旅行をしていた時、守礼門の扁額に掲げられた「守礼之邦」の文字を見た時、物語のアイディアが浮かびました。僕の場合はこういうものを読んでみたい、あるいは映像でもいいので観てみたい、というところが、最初のモチベーションになっているので、テーマが大きいとかそういうことは考えたことがないですね。小説を書く前から、こういう話があったら読みたいな、観たいなと思うネタを自分の中で勝手に考える癖があって、いくつかネタをストックしていたものの中から、最初に『天地に燦たり』を書き始めたという経緯ですね。
そもそも昔から作家志望というわけではなく、数年前にサラリーマン生活が落ち着いてきたので、新しい趣味でも見つけようかというくらいの軽いきっかけで小説を書き始めました。だから最初に松本清張賞に応募した時には一次選考も通過できず、ただ、そこで落ちたけれど自分なりにテーマには自信があったので、僕が頑張って書かなければこのテーマはもう世にでることはない……その時に初めて小説家になりたいと本気で思いました。一生懸命に書き直し、もう一度応募した結果、受賞したのが『天地に燦たり』でした。