━━実際に現地を取材された印象はいかがでしたか?
「三富新田の大きな特徴は、一軒ごとに平等に、横四十間(約72メートル)、縦三百七十五間(約675メートル)の短冊状の土地を与えられ、それが整然と並んでいることです。しかも、その中に母屋、畑地、平地林が収められている。平地林は落ち葉を堆肥として利用するためのもので、一つの土地で、畑作に必要なものが完結しているんです。現地を実際に見て、そのスケールの大きさに度肝を抜かれました。しかも、四百年以上たった今も、そこで川越芋などの畑作が続いていることには、感動を覚えましたね。
最初は吉保と綱吉の物語にしようかと思っていたのですが、これは農民と吉保の物語にしなければならないと、考えを改めました。読者の方には、地に足を付けて暮らしている庶民の強さを感じてもらえれば幸いです」
梶よう子(かじ・ようこ)
東京都生まれ。2005(平成17)年「い草の花」で九州さが大衆文学賞受賞。08年「一朝の夢」で松本清張賞受賞。16年『ヨイ豊』で直木賞候補、歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。他の著書に『みちのく忠臣蔵』『商い同心 千客万来事件帖』『葵の月』『五弁の秋花 みとや・お瑛仕入帖』『北斎まんだら』『花しぐれ 御薬園同心 水上草介』『父子ゆえ 摺師安次郎人情暦』など。
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