◎川越を知るための3冊
吉保の悪評を覆す
『柳沢吉保の実像』野澤公次郎著(みよしほたる文庫3)
「三富新田がある三芳町教育委員会から刊行された本です。吉保のことを調べるために読んだ評伝の中で、一番面白かったです。世評と異なる、吉保のいい面が詳しく書かれています。たとえば、川越藩主になった際には、嬉しさを隠しきれなかったそうです。私は決して吉保ファンではありませんが、このエピソードには、可愛さを感じましたね。
ちなみに、著者の野澤さんは、信玄公宝物館の館長。吉保はのちに甲府藩主に転じているため、吉保に関する資料が多く残されているのだと思います」
徂徠は直言居士だった
『荻生徂徠「政談」』尾藤正英=抄訳(講談社学術文庫)
「タイトルの通り、荻生徂徠の政談を集めたものです。読んで分かるのは、徂徠はとにかく正論の人だった、ということ。吉保や将軍吉宗など、仕えた殿様にも、正論で堂々と反論しています。『庶民が言うことを聞かないのは、武士が悪いからだ』なんて趣旨のことを、あの時代に直言しているんですよ。サラリーマンなら即、左遷されそうですが、それでも重用され続けたのは、人間的に魅力があったからなのでしょうね。ただ、道徳観などもあまりに正しすぎて、裏で何を考えているのか分からない面もある。小説の主人公というより、脇役として面白い」
川越の基礎知識
『シリーズ藩物語 川越藩』重田正夫著(現代書館)
「幕末までの川越藩の歴史を知ることができます。江戸幕府にとってはまず、北の諸藩に対する守りとして、軍事的に重要な拠点でした。だからこそ、柳沢吉保以外にも、酒井家、堀田家、松平家と、名門が藩主を拝命していた。信綱の治世から江戸―川越藩間の舟運が盛んになり、川越から材木や作物、江戸からは呉服、小間物といったファッション的な物も多くありました。小江戸と呼ばれる由縁ですね。そんな歴史が、詳しく綴られています。基礎知識を得るのに最適」
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