- 2018.09.11
- 書評
過剰な責任と違法な脅しで追い詰められる若者たち
文:今野晴貴 (NPO法人POSSE代表)
『西一番街ブラックバイト』(石田衣良 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
最後に、(8)~(10)に関しては、過酷・低処遇から辞めたいと思っても、先に触れたように責任感を植え付けられてしまうことに加え、上下関係や暴力によって、辞めさせてもらえないという事態だ。中には、「損害賠償の脅し」(効力はない)を使って引き留めるケースもある。多くの場合、契約書にあらかじめ「辞めたら損害賠償を請求する」と記載しておき、辞めようとすると両親に対して弁護士や社会保険労務士から「脅し」の手紙を送るというケースであるが、本書に登場するような苛烈な暴力行為を伴うケースも、実際に存在する。
以上のように、ブラックバイトとは、アルバイトを中心的戦力として活用する一方で、過酷な労働条件を課し、それを責任感や契約をたてに辞めさせず、それでもだめなら暴力さえも行使される、といった問題なのである。
ブラックバイトの具体例
もっとも過酷な例は、ある大手飲食チェーン店のものだろう。
この店舗で働いていた大学生は、二〇一四年にインターネットから応募し、大手チェーンのフランチャイズ店舗で働き始めた。大学一年生の五月である。当初は普通のアルバイトであったが、先輩のフリーターが辞めてしまうと一気に人手不足になり、一年生の二月から三月にかけては、月に二、三日しか休めなかった。仕込みから閉店作業まで担わされるようになり、彼は店舗運営の中心的な戦力とされていた。さらに、翌年度は四月十一日にバイトを休んだのを最後に、退職する八月十一日まで四ヶ月連続で働かされたという。新学期に入ってからは、学校に通うことができない状態が続いていた。