- 2018.09.20
- 書評
監督の目から見て、とても映画的だと感じられた小説の描かれ方とは。
文: 河瀨直美 (映画監督)
『朝が来る』(辻村深月 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
タワーマンションの上層階に暮らす佐都子はこの日常にこの上も無い幸せを感じ「満ち足りている」とはっきりと自覚している。そんなある日、無言電話がかかってきてその「満ち足りている」日常に事件が起こる。ひとつは6歳になる息子「朝斗」が幼稚園で起こしたもの。そしてもうひとつは同じく「朝斗」を取り巻く現実、彼の人生の根源が明かされてゆくというものだ。前者の事件からは佐都子の揺るがない子供への態度、我が子を信じる確固たる意志が見え、読者はこの立派な母の像を確認する。そして息子の「朝斗」もまたそんな母へのゆるぎない信頼を忘れない。概ね第一章ではその「満ち足りた」日常、ゆるぎない親子関係を描いているとおもいきや、事件が一件落着した途端、間髪入れずにもうひとつの事件はやってくる。「朝斗」の出生に関する秘密が突然明かされるのだ。この展開に読者は驚かされ、一気に物語に引きずり込まれるだろう。この確固たる絆を築いている親子が実の親子でなく、まだ20歳そこそこの茶色く髪を染めた「ひかり」が実の母親であるかもしれないという真相を知りたくなるのだ。しかし、物語はそこを描く前に、第二章で佐都子の家に朝斗がやってくるまでの10年程の時間を克明に描く。それは近年多くの夫婦が直面する不妊治療に関する出来事だ。親戚縁者からの子供の誕生に期待する声が煩わしく感じる35歳を過ぎた頃、他ならぬ佐都子と夫の清和もまたその現実と向き合う事になる。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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